フランス映画だ。
これぞフランス映画!といってもいい。
ハリウッド映画のように、お涙頂戴しない。
ハリウッド映画のように、ハッピーエンドにしない。
切なく、そして切ない、ひたすら切ないフランス映画だ。
「潜水服は蝶の夢を見る」公式サイト
<ストーリー>
ELLEの敏腕編集長ジャン=ドミニク・ボビー(マチュー・アマルリック)は、病室で目覚める。
医者は一方的に話すばかりで、こちらの話を聞いてくれない。
ようやく自分が脳梗塞で倒れて、全身麻痺になったことを知る。
動くのは左目だけ。
意識ははっきりしているのに、瞬きすることしかできない。
瞬きだけでコミュニケーションを取る方法を教えてくれた、美しい言語療法士アンリエット(マリ=ジョゼ・クローズ)に、彼が最初に伝えた言葉は、「死にたい」だった・・・・・
昔の編集長としての輝かしい実績、別居中の子供たちとのひと時、浮気相手の女・・・・
様々な思い出と共に、想像は妄想となり、潜水服を着たような重たい体から、蝶のように自由に飛び立つのだった。
懇親的に尽くしてくれるアンリエットと、別れた妻セリーヌ・デスムーラン(エマニュエル・セニエ)と子供たち。
以前はこんなことが、うっとうしかったが、少しずつ生きる力を取りも戻し、瞬きだけで自伝を書くことを思いつく。
途方もない時間をかけて、一語一語瞬きだけで伝えていく作業が始まった。
プレーボーイを豪語する父も、今は自力で階段も上り下りできないほど、年を取った。
髭剃りをしてあげながら、つかの間の親孝行。
よもや、自分が父よりも先に逝ってしまうとは、この時は思いもよらなかった。
女大好きは父譲り。
美しい言語療法士と生牡蠣を食べるシーンはエロティック。
レストランから海で抱き合う二人。妄想するときの自分は、蝶のように自由だ。
こんな体になっても、すぐにエッチなことを考えるのは、フランス人だから?
なんとなく女漁りをしている彼を見ていて、サルコジ大統領を思い浮かべてしまった。
体が動かないので、見える場所が決まってしまうが、どうしてもスカートがひらひらする腿のあたりを見てしまうジャン=ドミニク。
使うカードは、普通のアルファベットととは違う。
頻繁に登場する頻度の高いアルファベットから並べてある。
これを、「E(アー)S(エス)A(エー)R(アル)・・・・・」と読んでいき、伝えたい言葉のアルファベットのところへきたら瞬きする。
気の遠くなるような作業だ。
そしてイエスなら瞬き1回、ノーなら瞬き2回。
動くのは、左目だけ。
右目は見えるのに、まぶたが動かないのを理由に、縫ってしまう。
光の透けて見えるまぶたの向こうに、自分のまぶたを縫い付ける医師の姿が見える。
上のまぶたと、下のまぶたが、糸で縫われていく。
糸が見える・・・・
医師が見える・・・・・
「やめてくれーっ!」という言葉は、叫びたくても声にならない。
浮気をして女のもとへ行ってしまった夫だが、こんな体になってから、妻は再び看護に通い始める。
こうなってやっと、自分のもとへ帰ってきてくれた・・・・そんな想いで懇親的に介護していたに違いないが、ある日、病室に引いた電話にかかってきたのは、倒れてから一度も見舞いに来ない夫の愛人からだった。
「前のあなたでないと、会いたくない。」
という女に、夫からのメッセージを伝える妻。
教えられたとおり、「E・S・A・R・・・・」とカードを1字ずつ読み上げながら、彼のメッセージをメモする。
最後まで聞かないうちに、その言葉を理解し、電話の向こうに伝える妻。
「きみのことを愛しているよ。」
こんな辛いことってあるだろうか?
離婚したのに、子供と共にもとの夫を支えていこうとしている妻。
それなのに、愛人に愛のメッセージを伝えさせる元夫。
映画は、しかしこの後妻が辛くて泣いたりするシーンはない。
観客を泣かせない。
ただただ切ないばかりなのだ。
全編、ジャン=ドミニクの視点で描かれている。
なので、最初は画面がグラグラして、視点もぼやけて、車酔いのような気分になる。
話が3分の1ほどきたところで、ようやく彼の姿が現れる。
以前男前で、ブイブイいわせていたプレーボーイが、ギョロッと見開かれた瞳と、ダランと曲がった唇からヨダレをたらしている姿は、同じ人物とは思えないほど。
迫真の演技だ。
そうして、彼の視点からみた、終末のとき。
人間死ぬ時って、こんなかんじなんだろうか・・・・・・???
潜水服を着たような重たい体で、最後まで命を全うしたジャン=ドミニク。
切なくて・・・切なくて・・・・
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潜水服は蝶の夢を見る - Le scaphandre et le papillon -
Excerpt: 潜水服は蝶の夢を見る 特別版【初回限定生産】 [DVD] 「潜水服は蝶の夢を見る - Le scaphandre et le papillon -」 感想 20万回の瞬きで自伝を綴った�...
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この記事へのコメント
サリー
まだ~むさま、表現力が素晴らしい!
なんか見たいような、見たくないような・・・。
以前は1人のフランス人にも会ったことがなくて、「フランス人って、フランス映画って、まったく~!」とか思っていましたが、現在、多少はフランス人に会ったり、言葉が分かったりすると、心に迫り方も違うかなあ。
ちなみに、ヴェネツィアでは、フランス人(もしくはベルギー人やスイス人かもしれないけど・・・)は、どこでもフランス語で通してましたっ!お土産物屋さんも、レストランの人も、みんなフランス語で返せてました。
なんかイタリア語より、フランス語を聞いた気がする・・・うぅ。
ノルウェーまだ~む
冬のイタリアは行ったことがないけど、美味しいものいっぱい、綺麗なものいっぱいで、本当にいい所ですよね。
ヴェニスはフランス語が通じるのですか?
フランス人観光客が多いのかな?うーん??
ところで私もフランスに対しては、旅行をしてあまり良いイメージがないのですが、この映画に関してはフランス映画の良さを始めて知った映画となりました。
シャーロット
アメリカ人監督が撮ってるから本当にフランス的なニュアンスがあるのかはわかりませんけど、さすがにアート性はばっちりありましたね。シュナーベルの過去作品もかなり好きです。
ジャン・ドゥーは本が発売されて2日後に合併症で亡くなったわけですが、なんだかあまり悲壮感を感じないというか;まだ美女の妄想とかしていそうな気がして;笑
気が早いですがすでに今年のマイベスト作品ってことになってますww
ノルウェーまだ~む
大絶賛ですね!
大きく見開かれた瞳、20万回の瞬き…想像するだけで、ゲンナリしますが、なるほど悲壮感がないのは、妄想の世界で自由に飛びまわれる点が鍵なのでしょうね。
えい
確かにとても切ないです。
でも、ボクはこの映画に
なぜか奇妙な明るさを感じました。
そこが、またこの映画を好きな理由の一つかもしれません。
ノルウェーまだ~む
確かに絶望より、希望を感じる映画ですよね。
切ないけどむなしくないというか…
きっとジャン=ドーのエロさが、一筋の光を射してくれているのかもしれないですね。
non
良い作品でしたね・・・
フランス映画は時々苦手なのもあるんですが、
コレはとても良かった!
感動を全面に出しているわけでなく、ユーモアに溢れ、
あんな厳しい状況なのに決して暗くなく。
だからこそ、主人公と父親や、主人公と元妻とのやり取りに
グッと来てしまいました。
ところで、確か幣ブログのFC2では、何故かウェブリブログさん
からのTBを受け付けられない状況にあって、
本当に心苦しい限りです。
FC2の多くのユーザーさんからも問い合わせがあるようなのですが、
コレと言った原因が分からないまま現状に至っております。
大変申し訳ありませんm(_ _)m
ノルウェーまだ~む
どうも何回かはチャレンジしてみるのですが、TBが入っていないようですね。
諦めずに、また次の機会にトライします~
ところでこの映画はフランス映画と思っていましが、アメリカ人監督とアメリカ人スタッフによる映画のようですね。
それでフランス映画のやりきれないかんじと、アメリカ映画の泣かせますの丁度中間だったのでは?と思います。
mig
おはようございます、コメントありがとうございました。
本当、泣かせようとする映画ではなかったところがまた良かった、切ないお話でしたよね、これが事実だからまた凄い、、、、。。。
ノルウェーまだ~む
本当に事実ですもんね…
左目だけでも機能しなかったら、相当なダメージを受けるに違いない私。
左目しか機能しないって…
睦月
ハンディを背負った人物に対するネガティブな視点で涙を誘うのではなく、限りなく広がる自由とイマジネーションによって明るい世界観と感動を与えてくれる作品だったと感じました。
素晴らしかったですね♪
cyaz
TB、ありがとうございましたm(__)m
こんな重度の障害を持つと、とてもポジティブ・シンキングが出来ないですが、彼は本当に偉かったですよね!
そして何よりも彼の側に居た言語療法士は素晴らしいと思います。
何度かTB試したのですが、残念ながら反映しませんでした。URLだけ置いておきます。 http://blog.goo.ne.jp/cyaz/e/06c5eb1ccb292b63e276a8514d2c5b21
ミチ
>観客を泣かせない。
>ただただ切ないばかりなのだ。
そうなんです、おかげであざとさを感じずに素直な心で見ることができました。
誰もが彼のように強くはないし、手厚い看護を受けられるわけではないけれど、自分の想像力で新しい「生」を生きたジャン=ドーの人生は拍手ものですね。
ノルウェーまだ~む
フランス映画とアメリカ映画の融合が、あぞとさなしの爽やかさを作り出して成功したかんじですよね。
その人生をどう全うするかは、やはり自分自身なのでしょうね。
kimion20002000
切ないんだけれど、主人公は皮肉屋さんで、どこかユーモアもあり、最後まで女性の幻覚を追いかけているところがまた、フランス映画らしいです。
ノルウェーまだーむ
ユーモアにも切なさにも、ちょっとひねったところがあって、フランス映画っぽさ全開でしたね。
なかなかの映画だったと思います。
David Gilmour
そうですね、この映画はほんとに切ない作品でしたよね。ぼくは、本作で演出やシナリオの巧みさと、映像表現の素晴らしさなどを感じ取りました。
ノルウェーまだ~む
わたしもこの映画の映像表現は、すばらしいなぁと感心しています。
動かない人をどう撮るか、まるで一緒に蝶になった気分でした。
由香
切ない映画でしたね~
でも、なんとなくユーモラスだったりするところが良かったです。
日本だと完全なるお涙頂戴ものになりますからねぇ~この映画の描き方は斬新というか、、、不思議な感覚がありました。
ドキュメンタリーも観たのですが、驚くほど淡々としていたんですよ~
で、、、唐突に終わるの(汗)
えっ?何だったの?これ?って感じです。ちょっと驚きました~
ノルウェーまだ~む
ドキュメンタリーは日本の番組なのかな?
突然死んじゃうと、話も唐突に終わってしまうのかしらね?
フランス映画風ならではの、淡々としたところが、熱く涙を誘おうとしない点で、私は気に入りましたよ。