戦後70年。
世界中で意欲的に反戦映画が作られている今年だからこそ、1つは必ず戦争ものを、そしてその1つに選ぶならこの映画を観て欲しい。
いや、観るべきである。
大岡昇平ファンのねえねが勧めてくれた「野火」「靴のはなし」「俘虜記」を読んでからの鑑賞。
「野火」 公式サイト
<ストーリー>
フィリピン・レイテ島。
敗戦が色濃くなった第2次大戦末期、肺病を患って部隊を追い出された田村一等兵は、重傷者でいっぱいの病院も追い出され行き場を失い、病院近くの草むらに潜む脱落兵たちと合流する。
いきなりの襲撃で散り散りになり、再びレイテのジャングルを彷徨ううちに、村の教会で騒ぎ立てる村人を射殺してしまう。
隠してあった塩を盗み彷徨していると、パランポンまで行けば日本軍に合流できるという伍長(中村達也)率いる一行と出会い、後を付いていくのだが・・・・
見事なまでに美しいフィリピンの大自然
浮世離れした美しさの星降る夜の空、ホタルの光(実はリン)、極彩色の花と暢気なリゾートにすら見える緑が目にまぶしい。
1959年の市川崑監督の名作「野火」は、なかなか手に入らず苦労したけれど、白黒の画像は南国の湿度を感じさせず、照り付ける太陽のもと、渇きと飢えがヒリヒリと伝わる作品だった。
乾燥し切った映像は、ある種主人公田村がガリガリに痩せて、ただただ無意味にレイテを彷徨う姿を、ドライな気持ちで眺めることによって、大岡昇平原作の特徴でもある、『どこか俯瞰した』様をよく表していた。
主演を務める塚本晋也監督が好演
資金が集まらず、ボランティアスタッフを募集して自主製作映画として完成したこの作品。
なるほどもう少し痩せぎすの俳優を使えばよかったのに・・・・と思って見ていたけど、そういった資金的なものもあったとは・・・・それでも正気と狂気の狭間に立つ田村一等兵を演じるのは塚本監督で正解だったとも言える。
そしてなんと、とらねこさんが声の出演をしているのだそう!「私を食べて~♪」の妖艶なお声は、セクシーな彼女にぴったり☆
本気で痩せていた伍長の中村達也が秀逸
食うのか食わないのか、食うのか食われるのか・・・・
正気と狂気、精神力と判断力、極限状態でありながら、それでも部隊の伍長であろうとする=存在意義だけでのみ生を全うしようとする姿を淡々と演じる。
食わせ物の安田(リリー・フランキー)が、この物語の最大のキーマン
なぜかいつもの色白なリリー・フランキーよりも日焼けした肌がツヤツヤしていて健康そうに見えてしまったけど、それには訳があって・・・・・
結構最後の方まで、彼がリリー・フランキーだと知らずに見ていた私。
みんなボロボロの兵士の格好で、黒くうす汚くなっているので、誰がだれだか見分けがつかなくなっちゃう(汗)
ここで塚本作品だったことを思い出す
どうやってPG-12を勝ち取ったのか判らないほどの迫力。
市川作品の戦地に於いて自らの飢えと信仰心との戦いを描いて、喉の渇きを最大限に追体験させたのに対し、(原作もウジの湧いた泥水しかない事に苦しむ)
塚本作品ではふんだんに川で村で水を飲んだりする分、熱帯のジャングルの湿度、燃え盛る炎の暑さ、吹き飛んだばかりの肉片と血しぶきのまだ人間であった頃の体温と湿度によって、戦争そのものを追体験させている。
でも安心して!PG-12だからね☆(でもどう考えても15歳以上がおススメだけど)
白旗を挙げた兵隊も射殺される非情な戦地は逃げ場ももうない
渇ききって倒れた田村は、ひげもぼうぼうでガリガリに痩せている。これまで意外にも飄々としていた田村に悲壮感が漂う。
かなり監督本人も頑張って痩せたのでしょうけど、思ったより頬がコケてないのが、予告編を見て不満だった私。
もしグロいシーンを撮りたいが故に、この原作の映画化を選んだのだとしたら、非常に不本意だわ・・・・と思っていたけれど、そんなことは杞憂に終わったのだった。
(実際、塚本監督はこの映画の後も痩せたままで、年取ってから痩せたらお爺ちゃんみたいになっちゃうから良くないね・・・・ととらねこさん談)
ただただ戦地で彷徨う。
何の為に?誰の為に?誰の命令で?誰が命令した?その命令は正しいの?そこに意味はあるの?
この虚しい戦争の本質を突いた原作を、見事なまでに描き切っている。
安田の子分で猿狩りをさせられている、泣き虫の永松(森 優作・新人)はついに・・・・
狂気に満ちた戦場下において、淡々と正気を保つ田村。
イモを盗もうとしてタコ殴りにされる永松をかばって、最後のイモまで差出し、「これで勘弁してやってくれ。」と、何故言えるのか。
実は原作では、原作者の大岡がそうであったように、キリスト教信者であり、またインテリだった彼が、こんな悲惨な状況下であっても、どこか俯瞰したものの見方をして、全てをシニカルに捉える人物であったことがこの物語に大きく影響している。
そして庇ってあげた永松にまで、食べられそうになるこの皮肉。
何故大地を血で汚すのか
ねえねはパンフレットを2冊購入。
地の匂い。
水と空気の匂い。
樹液のに匂い。
めくれ上がる皮膚の匂い。
散らばる内臓の匂い。
腐りゆく自分の匂い。
トラウマになりそう?
トラウマになって残らないような反戦映画を装った戦争エンターテイメント映画なら、最初から観ないほうがいいのだ。
ちなみにねえねに懇願されて、このあと焼肉屋へ。ダイヤモンドカットのお肉をひっくり返す時には、さすがに・・・・・
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この記事へのコメント
とらねこ
原作を読み、大岡昇平のその他作品まで読み、市川版まで見て、さらにパンフまで読んで…なんて。
なんだかもう完璧じゃないですか!
素晴らしすぎます。
ねえねさんに気に入ってもらえたのも嬉しいです。
明日から、義務と労働の日々が始まりますね。
気苦労が大変かと思いますが…。
帰ったらよろしければ、また何かでご一緒させてくださいませ!
よろしくお願いします〜。
ノルウェーまだ~む
いえいえ、元々ねえねの大岡昇平ファンが高じて作品を読んでいたわけで(笑)
でもそのおかげで、より一層深く観られたかな~
不思議なことに「俘虜記」を読むと、「野火」で究極の飢餓を経験したはずの兵士たちが、収容所でアメリカ軍のトラックから盗んだ缶詰とか食べてて配給された食事を沢山残したりするようになるというのが、また皮肉だなぁと思いながら観てたわ。
明日から松山で頑張ってまいりますっ!敬礼!!
zooey
私はこれ、観る勇気ないのです。
まだ~むさん、いかにお嬢さんの影響と言えど
よくご覧になりましたね~!(@@)
明日から大変なようですけど
ご自愛下さいまし。
私もこの週末から帰省します。
ノルウェーまだ~む
何も勇気などいりませんよ。なんたってPG-12なんですから!
正しく言うと、こういう映画に目を背けて、戦いに勝ったの負けたのだの、愛する者の為に戦うのだの、作戦がどうのだのいう作品だけを見ていたら、いつか戦争に片足を突っ込むことになっていくのではないかと危惧してしまうのです。
zooeyさんも親孝行月間ですね、頑張りましょう☆
ノラネコ
そして市川版が作られた戦後14年と、現在との時代の違いも意識せざるを得ませんでした。
市川版は題材がリアルすぎてある程度ぼかしていたけど、逆に今の時代はここまで生々しくしないと伝わらないんだなあと。
それはある意味幸せな事ではあるんですけど。
セレンディピティ
私も毎年この時期は必ず戦争映画を見るのですが、野火は映像で見るのは無理そう...。でも原作は読んでみようと思います。
塚本晋也監督が自主制作、主演しての作品。まだ~むさんのレビューを拝読しただけでも、その信念のほどが伝わってくるようです。
にゃむばなな
そして戦後70年でも見るべき映画はこれですわ。
安保論争もこの映画を見てからしてほしいと思えるほどの素晴らしき作品でした。
さすが塚本晋也監督ですたい!
ノルウェーまだ~む
確かに仰る通りですね。
市川版では「サルの肉」を歯が欠けて食べられなかったりするあたりも、この事実が禁忌であった生々しさをかえって感じさせますが、今やここまでハッキリ見せないと「戦争の現実」は伝わって行かないのだということなのですね・・・・
ノルウェーまだ~む
それは残念です~~
臆せず観てもらって大丈夫と思いますよ。
何しろPG-12・・・(以下省略)
いずれにしても、観ないのは勿体ない作品です。
ノルウェーまだ~む
ですよね!
多くの人は「はだしのゲン」を図書館からも追放しようとしたくらいなので、観ない人も多いかもですが、戦後70年の今年だからこそ観るべき、学校教育にも取り入れるべき作品だと思います。
ふじき78
ノルウェーまだ~む
ですよね?
いつもの戦場を彷徨っていそうな、負けた侍風なかんじがかえってなくて、逆に健康そうに見えたので、彼がリリーフランキーだと気が付かなかったですよねぇ。
SGA屋伍一
戦争モノが特によく知られてますが、恋愛ものなど他のジャンルもたくさん書かれてるそうですね。wikiを見ると相当論戦が好きだったなんてことも書いてあって、面白い人だなあと
リリー・フランキーさんはこのあと『バケモノの子』で癒し系みたいな役を演じていて芸域の広さに感心しました。かのスピルバーグも『そして父になる』での演技を絶賛してたとか。前はバラエティでにやにや笑ってるおじさんだったのに…
ノルウェーまだ~む
いやー、私なんてねえねから夏休みの宿題に、大岡昇平著「文学の運命」「作家の日記」「成城だより」と新潮日本文学アルバム67「大岡昇平」の読書が出題されているのだけど、「野火」~「俘虜記」まで読んで、今のところ精一杯なのでした。
ちなみに上の2冊には大岡昇平直筆サインがあるのyo~~