戦後70年。
戦争と距離があくことで、逆に戦争に近づいて行っている昨今。
この夏だからこそ、子供たちに「戦争とは」を伝えるのに適した良作に出会いたいものだ。
戦争の悲惨さを伝えるために、グロイ描写は避けて通れないとはいえ、小・中学生ではトラウマになりかねず、かえってそういった作品が敬遠されてしまうのだとしたら残念だ。
その点、児童文学のノーベル賞とも言われる国際アンデルセン賞受賞作家が書いた「走れ、走って逃げろ。」を基に作られたこの作品は、子供たちと一緒に見ることが出来て、更により詳しく話し合って知識を増やすことのできる秀作と言える。
「ふたつの名前を持つ少年」 公式サイト (8月15日公開)
<ストーリー>
ゲットーから逃げた8歳の少年スルリックは、森で暮らすユダヤ人の子供たちからはぐれてしまい、独り森を彷徨ううちに行き倒れ、ポーランド人のヤンチック夫人に助けられる。
そこでポーランド人孤児ユレクとして生きるすべを教えられる。
様々な農場で働きながら追手が近づくと移動し、森を逃げながら、再び農場を渡り歩くユレクだったが、ついにゲシュタポに捕まり・・・・
農場で時に盗み、時に働きながら、森で寝泊まりしたりナチスから逃れ終戦までの3年間を生き延びる
冒頭からの過酷な生活環境にいきなりガツンとやられてしまう。
吹雪の中で破けた靴下からはみ出た素足を引きずって歩く姿は、あまりにも過酷すぎて、もやは炎天下のコンクリートジャングルが恋しくなってくるほど。
最初のシーンが辛すぎたので、ユダヤ人の子供たちとはぐれた時にさめざめと泣くところや、農場で働きながらでも快適に生活できていたシーンは、案外淡々としていて泣けなかったりする。
8歳でも生きるために必死で働く
ポーランド人孤児を装っても、冷たく追い払われることもあれば、薄々ユダヤ人だと気付いていても、しばらく家に置いてくれる親切な家族もいる。
ユダヤ人を匿えば自分たちの身も危ないのに・・・という緊張感はあまり強く描かれては無かったけれど。
嘘をついても生き延びようとする姿は~~~この主役の子が可愛いからOKだったとも?
親切なヤンチック夫人はSSに追い詰められ・・・・
ユレクを匿ったことで家まで焼かれたヤンチック夫人。
「ぼくのせいで?」と問うユレクに「パルチザンだったからよ。」と答える。
ポーランドの地下組織パルチザンや、ユダヤ人の慣例である割礼、ポーランド人を装うためにキリスト教の祈りを覚える、ユダヤ教はクリスマスを祝わない・・・・等、等。
映像は子供向きでも、子供の知らないワードが多いので、理解が難しいかも。
公式サイトのワード解説を先に読んでおくか、鑑賞後に子供と戦争について話そう。
ついにゲシュタポに捕えられるが・・・・・
骨があるところを見込まれたのは判るけど、憤慨していたわりにドイツ兵に見逃してもらえたりとかは、ちょっと疑問符が。
でも実話を取材して書かれた原作なのだから、本当の事なのかな。
父の教えを守って、とにかく走って逃げる
「犬に追いかけられたら川に入れ」重たいコートがずぶずぶに濡れて・・・・
ただ生きようとするだけなのに、こんなにも大変な思いをするなんて。
豊かに暮らしてもなお、すぐに「死にてー」などと軽々しく口にする、現代の若者にこそ見て欲しい。
ユレクを演じたのは、ワルシャワ生まれの双子ちゃん、確かに違うんだけど見分けはつかない~~
「親を忘れても、『ユダヤ人』であることを忘れるな」という父の教えに従って選んだ分かれ道。
この辺は子供には理解が難しいかな。
皮肉にも結果的には違う宗教の神さまに救われたユレクことスルリック。
最後にイスラエルでユダヤ人らしい名前(多分)をつけた7人の孫たちに囲まれて幸せそうなスルリック氏本人の、現在の姿まで撮影したペペ・ダンカート監督がドイツ人だということにも、大きな拍手を送りたい。
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映画「ふたつの名前を持つ少年」を見ました。
Excerpt: 生きるためのゲットー脱出 戦争は常に、幼気(いたいけ)ない子供たちに、より過酷な運命を強いる。 「アンネの日記」は、ナチス・ドイツ占領下のオランダで、ユダヤ人迫害から逃れるために狭い隠し部屋..
Weblog: みなと横浜みなみ区3丁目
Tracked: 2015-09-16 13:08
この記事へのコメント
セレンディピティ
スルリックとユレクは、双子ちゃんがそれぞれ分けて演じたのでしょうか?
ナチスドイツを子どもの視点で描いた作品は縞パジャマの少年とか、黄色い星の子どもたちとか、心に残るものが多いです。
この作品も、考えさせられるよい作品のようですね。
いつもアクション系の作品ばかり見ている息子ですが、たまにはこういう作品にも触れて欲しいです。
ノルウェーまだ~む
ユレク(ポーランド人名)はスルリック(ユダヤ人名)の偽名なので、同一人物なのです。
双子が演じ分けたのは何故かは判らないのですけど、内気なひとりと積極的なひとりが上手い事シーンに合わせて撮影したようですよ。
激しいアクションに慣れていると、やや物足りなく感じるかもですが、是非息子さんにもおススメしてくださいませ。
「独りで生き抜く力」がきっと胸に響くと思いますよ。
zooey
今週は「チャイルド44」を観ましたが
これは戦争ではなくてスターリン独裁下の恐怖政治の話。
あまりに暗くて重くて、ちょっと感想を書く気になれないの…
ノルウェーまだ~む
私も「チャイルド~」は観たいと思っていたのですが、そんなに重いの??!うわー
此方の映画はその点、生き延びた主人公のユレクによる話なわけで、どんなに過酷でも助かるという希望を持って観ていられるし気が楽ですよ。