原作が凄いのか、監督が凄いのか、女優が凄いのか…
確かに言えるのは、フランス映画なのが成功のカギだったことと、このミシェルを演じたイザベル・ユベールの醸し出す雰囲気が絶妙だったってこと。(ネタバレで書きます)
「エル ELLE」 公式サイト
<ストーリー>
突然覆面の男にレイプされたミシェル(イザベル・ユベール)は、翌日から不安な日々に苛まされていた。
猟奇的殺人の罪で父が収監されていることから、常に世間の冷たい目にさらされているミシェルは、警察に届けることもせず、通常通り生活しようとするが、彼女が運営する会社でも嫌がらせを受け、自力で犯人探しを始める事に。
そんな時、再びレイプ犯が現れ・・・・
彼女の動向は到底私たちには理解できない。勿論問題を抱える過去や境遇が違い過ぎるから判る訳がないとはじめのうちは思ったけれど、見ているうちにキャッチコピーの「本当に怖いのは彼女」というのはミスリードではないかと思い始め…
一見、ミシェルがレイプ犯を突き止めていくサスペンスなのかと思わせておいて、実は違う。
何しろ犯人が判明してからのあの行為だもの。
じゃあ、犯人に復讐する話かと思うとそうでもない。(結果的にはそうなったけど)
ここにこの映画の最大のポイントがある。
母(ミシェル)も「ばいた」ならば、祖母も「ばいた」
70代にして若い男との肉体関係に溺れる・・・・さすがにドン引いたけど、母が愛し合っていると思い込んでいた男の本当の目的は『凌辱』だった。
父が犯した大量殺人に対する制裁を、身内でもない一般の人が、母をレイプすることで『制裁』を加えたと思っている。なんて愚かな男、それに気づかぬ愚かな母・・・・
会社の部下全員から嫌われているミシェルを唯一慕っていると思ってた若いスタッフでさえ、自分の過去を調べて悪質な画像を作っていた。
モンスターに犯される女性にミシェルの顔の画像を張り付けていた彼も、全く同じ。
過去の事件を知り、罪もないミシェルを(又は部下に高圧的な態度を取る彼女を)ゲーム内で『凌辱』することで『制裁』を加えていたと考えられる。
そもそも男はどうしてこうしたサディスティックなゲームやアダルトものやら漫画やらを好むのだろう??
縛ってみたり、幼児性愛者だったり、レイプだったり、嫌がる者に対する倫理観の全く無い行為は、男にとってSEXは=凌辱だということなのか??
レイプ犯が誰だか判ってからも、自ら誘いのめり込んでいく…
この映画に登場する男性は皆ダメ男。
すぐ若い女に手を出す元夫、自立できないバカ息子、誘えばすぐ乗ってくる親友のダンナ、そしてレイプ犯。
それに対して過去の経験から強くならざるを得なかったとはいえ、隙のない高慢な態度で男を自由に操るミシェル。
この彼女の高慢っぷりを見事に演じたイザベルがとにかく秀逸☆
一見、あっちの男、こっちの男と手を出すミシェルに目が行きがちだけど。
女性がエロゲーのCEOを務めているというのはどういった事か?と考えてみる。モンスターが女性を犯すシーンがあるゲームは、まさに今までの彼女が男性から受けてきた『凌辱』の形だ。つまり彼女にとっての「その行為」は他人から受けてきた『制裁』だと無意識下に思っている。
そしてゲームのラストで(モンスターを倒し)威風堂々と歩く女戦士は、まさしくミシェルそのもので、それは彼女がレイプ犯の頭を灰皿で粉々になるまでぶっ叩く想像をしてニヤリとするシーン、そして何より忌み嫌っていた父に面会に行ったことで自殺に追い込んだ時の勝利宣言とリンクする。
男たちから加えられた『制裁』も彼女があえて選んで自ら誘うことで『レイプ』を『プレイ』として楽しみ、それらをコントロールし優位に立とうとした…つまりそうする事が彼女の『尊厳』を守る唯一の方法だったのだ。
ミシェルと対照的に明るく愛情たっぷりのアンナ(アンヌ・コンシニ)は、頼りない夫の代わりにバリバリ働くミシェルには足りないおおらかな母性で息子のヴァンサン(ジョナ・ブロケ)に接して、まるで本当の親子のようだ。
夫の新しい恋人に楊枝を仕込んだオードブルで復讐するだけあって、まるで息子を取られたような気がしたミシェルはアンナの夫を寝取って仕返しをしたつもりだったに違いない。
モンスターを倒したことで(父が亡くなったことで)トラウマと決別し、男たちに翻弄されることのない新たな一歩へ前進する
結局、この映画に登場する人物で、本物の愛があるのは親友との友愛と、我が子を想う家族愛のみ。(実は夫の事も家族として大切に想っている)
パトリックのレイプ癖を知りつつ見て見ぬふりをしていたお向かいさんが、児童に性的虐待をする聖職者を糾弾しないカトリック教会のメタファーだとするならば、夫を寝取られたにも拘らず広い友愛で親友を包むアンナはさしずめ神だ。
はじめはバカなのか?と思った息子も、肌の色の明らか違うベビーを生んだ彼女を純粋に愛しているという点でアンナの側の人間と言える。
そうして最後に壁があった若い息子夫婦を受け入れ、映画は『真実の愛はセクシャリティーの無いところに存在する』と締めくくっているように思えてならない。
とにもかくにも、『隣人を愛す』時は正しくね☆
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この記事へのコメント
まっつぁんこ
フランスなら“エ・アロール”ですむ政治家の不倫が関係ない赤の他人からヒステリックに糾弾される国ですからね。
ここなつ
ただ、一点だけ違うのは、ミシェルが面会することが遠因となって父が自死を選んだのは間違いないのたげれど、
>そして何より忌み嫌っていた父に面会に行ったことで自殺に追い込んだ時の勝利宣言
とは私は解釈していなくて、ミシェルはただ強がっているだけであり、ここぞという時に空振りして自分の思いが昇華できない孤独な女を表している代表的なシークエンスだと感じたのですよ。ある意味、ここでの勝利宣言は父がしている。過去にも現在にも、娘には決して思うままにさせない、というか、ね。
いやいや~、しかし、この作品、フランスで撮って大正解でしたね。
ノルウェーまだ~む
フランスならではでしたね!
ミシェルの性癖云々を色々言われてるみたいですけど、そんなのフランス人には普通の事なのかもしれません(≧▽≦)
ノルウェーまだ~む
うひゃー!父の勝利宣言でしたかっ!?それは思いつかなかった…
こういった色々な見方が出来たり、改めて違う見方もあるんだ!!って知れるところがブロガーさんのレビューを読む楽しみでもありますね☆
父が死んだと聞かされた時に、どんな顔するのかな?と思ってよっく見ていたのですけど、完璧な表情を消した無の表情!ここが凄いですよねっ!やるな~って思っちゃいました。
セレンディピティ
この作品、気になっていたのですが、内容が内容だけに見る勇気が持てず... やはり想像を超えて、かなりぶっとんでいるようですね。
サディスティックなシーンが多そうなので、やっぱり無理かも。でも怖いもの見たさで見てみたい気もする...。
この難役をこなせるイザベル・ユペールもすごいですね。
ノルウェーまだ~む
サディスティックといってもグロイわけではないので、それほど恐れるには足らないと思いますよ。
ただ女性が観ると精神的にしんどいかも…
といってもそれを凌駕するほどの強さを主人公が持っているので、大丈夫!(何が!?笑)
セレンさんのご意見も伺いたいな~☆
もののはじめのiina
☆正しい隣人の愛し方 は、
『隣人を愛す』時は正しくね☆
は、ちと難しいかも ("^ω^)・・・。
ノルウェーまだ~む
それがなかなか難しくて成敗されちゃったのですけどね(≧▽≦)
監督がメタファーとしての宗教観を入れてきているのだとしたら、きっとそう言いたかったのだと思いますよ。
『己れを愛するがごとく、汝の隣人を愛せよ』です。
性癖だから仕方ないでは済まされない事ですしね~~
にゃむばなな
でも征服欲って一歩間違えれば逆に征服されちゃうんですよね。
この映画ではまさにヒロインが男共をある意味征服してましたね。
あぁ~、恐ろしや…。
ノルウェーまだ~む
男が主導権を握っているつもりで、実はミシェルが逆手を取って征服している点で、女性は怖い…ってこの映画を観て思う人多いかもしれませんが、それは彼女がそうしないと生きてこられなかったというのもあるし、実質的には被害者は彼女ですからね~そこんとこ忘れてはいけません!!
ノラネコ
還暦越えにしてあの色気と現役感。
変態的性愛の世界も、彼女が演じると何だか上品でお洒落に感じてしまうのだから凄いですね。
魅力を引き出したバーホヴェントの相性は抜群だと思うので、また組んでほしいコンビですね~
ノルウェーまだ~む
還暦超えてもあれだけの魅力をたっぷり振りまける女性って、本当に凄いですよね!
それにしても男性はどうしてミシェルを変態にしたがるのでしょう??
私の独自の感想は、彼女が変態的性愛者なんじゃないって言いたかったんですよ~~
まっつぁんこ
複雑で深い映画であることに間違いない。
私もミシェルは変態ではないと思いますが唯一わからなかったのは隣人みながら自慰するシーン。これも勝手に解釈すればいいとは思いますが気になりました。
ノルウェーまだ~む
色々な見方が出来るのがいい映画の証拠なのかもしれないです。でも女性と男性ではやはり思うところは違いそうですよね。
双眼鏡片手に…のところは、
ミシェルに聞いたら「したかったから…」って言いそう(爆)