年明けてから最初の試写会は今度90歳になるクリント・イーストウッド監督の「リチャード・ジュエル」
題名としては地味なので危うくスルーするところだったけれど、これは今こそ見るべき秀作なのである。
「リチャード・ジュエル」 公式サイト(1月17日公開)
正義感が強すぎる心優しいリチャードは母と二人暮らし。
保安官をクビになりライヴ会場の警備員をしている時、ベンチの下に怪しいリュックを見つけいち早く観客を非難させ、被害者は出たものの多くの命を救い一躍ヒーローになった。
しかし数日後、FBIが自作自演の犯人としてリチャードを調べているという情報が洩れ、彼は一気に爆弾犯にされてしまう。
はみ出し者の弁護士ワトソンに助けを求め二人はFBIを相手に戦いを挑んでいくのだが・・・
真面目で正義感が強すぎてちょっとやりすぎちゃう感じのリチャードを、事務所の備品係の時代から描くことで良く表している。
スニッカーズ補充の為とはいえ(笑)人のデスクの引き出しを勝手に開けるのはどうよ?と思わないでもないけど、いつも周囲に目を配っていて素晴らしい働きぶりだからこそ、警備員としても仕事を全うできたのだ!
ヒーローから爆弾犯へ、一気に奈落の底へ落とされる。
息子を想う母親にキャシー・ベイツ。
かなり早い段階から会場はすすり泣きがあちこちで聞こえてきたけれど、最後の記者会見のシーンはもう落涙!!ぽたぽた涙が落ちてしまったけどハンカチ準備しておいたので大丈夫♪
FBIはアトランタオリンピックの年なので事態を早く収束させようと、犯人でっち上げに必死・・・ってそんな事ホントにあるのね??
ずさんな捜査に呆れ返るけど、それよりもリチャードの生真面目さで思わず笑っちゃうシーンが多々あって、この重たくムカつく話をホッとさせてくれるのだ。
とにかくリチャードの人間が出来ているというか、温厚な性格が立派!
日本人の私たちにはピンとこないけど、実に忠実にご本人の喋り方や仕草を再現しているのだそう。
破天荒な弁護士だけが、いつも彼を支えてくれる。無謀だからこそリチャードを救えたとも言える。
実話物とは言え最後はスカッとさせてくれる。と、同時にあれだけ犯人扱いしておいて、訂正記事はほんの小さくしか載らないという、別の意味でモヤモヤは尽きない。
今回は豪華な登壇者が!右から阿部祐二さん、デーブ・スペクターさん、長野智子さん、下村健一さん。このあと客席にカメラとライトで照らされてビックリしたら、私の斜め後ろに河野義之さんが座っていらして壇上へ。(松本サリン事件で犯人扱いされた方)
デーブさんが「この映画NYで観ましたが、字幕が無くて判らなかった・・・」とジョークを飛ばしたりもあったけど、メディアの有り方ついて考えたりとかつてない有意義なトークで、試写会の登壇者はこうあるべき!とつくづく思ったのだった。
河野さんはこの映画のモデル、リチャードご本人と当時対談したことがあったそう。
下村氏もリチャードは今でも毎年密かに現場に行って一輪の薔薇を手向け、自分がもう少し早く爆弾に気付いていたら亡くならなくて済んだのかも・・・と自戒の念を込めて祈っているのだと話していた。
この映画のテーマとなっているのは、スクープを取らんとするメディアによる無責任な取材で人権を奪うメディアリンチ。
本来無関係であるはずなのに、憶測でしかないメディアに踊らされる人々による誹謗中傷。
この映画は実話なのだけれど、今の様にSNSがなかった1996年ですら、いとも簡単に全米から犯人扱いされてしまった事を考えると、あっという間に拡散されてしまう今の時代、SNSリンチに遭うこともSNSリンチする側になることも自分と無関係ではないのだと思うと恐ろしい。
今一度、安易に「いいね!」を押すことにどんな意味があるのか、どういう事になるのか?情報のソースがどこにあるのか改めて考え直すべきだろう。
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この記事へのコメント
セレンディピティ
今日、フォード&フェラーリを見てきて、本作の予告を見ました。
金曜日の日経夕刊で読んで初めて知りましたが
イーストウッド監督による、実話をもとにした作品なので、見応えがありそうですね。
どんな風に作られているんだろう...ととても気になります。
私もストーリーを知って、すぐに松本サリン事件を思い出しました。
リチャードに、優秀で信頼できる弁護士がついていて、ほんとうによかったですね。
ノルウェーまだ~む
>
これがね~優秀なやり手な弁護士が彼を救ったと思うじゃないですか?実はそうではなくて、無鉄砲な男っていうのがポイントなんです。これがまた面白いところですね。
さすがイーストウッド監督ってかんじです。
是非ご覧になってみてほしいです。
「フォード~」を早くもご覧になられたのね!?良かったら感想もお聞かせくださいませ。
ごみつ
私も公開初日の今日、見に行ってきました~。
安定で、よく出来た映画でしたね。
メディアや政府権力によってじわじわと容疑者にまつりあげられていくリチャードの姿、本当に恐ろしかったです。
SNSが力を持っている現代だからこそ、見るべき作品でしたね。
キャストも地味ながら素晴らしかった。特に、サム・ロックウェルはホントーに良かったです。彼はいつでも素晴らしいんですよね~。(*´ω`)
ノルウェーまだ~む
>
どのキャストもピッタリでしたよね!?
サム・ロックウェルの破天荒弁護士ぶりも、FBIのムカつく奴らも、勿論主人公リチャード・ジュエルも!
今こそ多くの人に見て欲しい映画ですね☆
yukarin
SNS時代の今、いいねやリツイートなど気を付けないといけないなと思いました。それにしてもFBIもこんなずさんな捜査をしていたとは驚きです。
メディアの人たちもこの作品を観て考えてほしいものです。
ノルウェーまだ~む
>
日本でもいい加減な証拠探しや憶測で犯人扱いしていた事件とかありましたよね。
特に最近は匿名性をたてに、無責任な糾弾を平気でする人が増えていて本当に恐ろしいです。
警察もメディアも一般市民も、それぞれがこの映画を観て何か感じてくれるといいなと思いました☆
BROOK
その怖さをもの凄く上手く描いていたと思います。
そして、現在もこのような状況は変わっていませんよね…。
44歳という若さで亡くなられたのは悔やまれますが、
母親がワトソンとナディアの子供の面倒を看ているというテロップ表示には救われました。
ノルウェーまだ~む
>
リチャードと母親とワトソンとナディアが一つの家族のようでしたね。
皮肉な事にこの事件を通して強い結束が生まれたのかもしれません。
リチャードは残念でしたけど、この映画で本当の英雄となって後世に語り継がれて欲しいものです。
ituka
真面目と思えば、税金の滞納があったり必要以上に銃のコレクションとか
いい面悪い面など、案外これが普通人なのかもしれません。
にしても、御大の映画製作は自然体で不必要に飾らないところがいいです。
Nakaji
やっぱりクリント・イーストウッド監督ってすごいって思いました。
しかしこんなことがあったことがびっくり。
冤罪も冤罪。この弁護士いなかったらどうなっていたの?ってぞっとしました。
ノルウェーまだ~む
>
そうそう、ジュエル氏は真面目が行き過ぎて、警官クビになったり、完璧な人物でなかったことが今回の犯人扱いにも繋がったと言えばそうなんですよね。
でも全く清廉潔白な人物なんて居ないのかも・・・
イーストウッド監督、それこそ大御所感たっぷりで力を入れ過ぎてないのも良かったデスね。
ノルウェーまだ~む
>
先日テレビでも冤罪で1年以上拘束されていた大学生の事やっていましたけど、本当に恐ろしい話ですよね。
誠意のある弁護士さんが、時には友としてジュエルを支えていたのが救いでしたね。
ふじき78
名前の割には自由じゃなかったな。あれなら「リチャード・不自由エル」って名前でいいわ。
ノルウェーまだ~む
>
座布団半分で?
ボー
ノルウェーまだ~む
>
色々な役をこなせる人ですね~
これからが楽しみな役者さんです。
にゃむばなな
人が良すぎるリチャードにツッコミを入れるワトソンみたいな感じで。
そしてM-1で優勝するコンビのように互いを信頼し合っているところも。
ノルウェーまだ~む
>
確かにその通りですね~
二人が心から信愛し合っている様子がほのぼのするので、過酷な状況に追い込まれている話なのに、どこかほっこりしてしまうのです☆
ここなつ
本作、公開時に即鑑賞したのですが(クリント・イーストウッドとサム・ロックウェルという大好きな人たちなので)、書くことが多過ぎてブログになかなか書けなかったんですね。
そして、今思い返してみても、ホントこれって深い作品なのだと思います。
ただ正直に生きているだけでこんな目に遭うなんて…怖いな、と思いつつ、実際に今の日本でもあり得る話ですよね?
ノルウェーまだ~む
>
本当にそう思いました。
ネット情報やメディアの横並び報道で、一般人も右習えしてしまうのが日本だけじゃないのね?と凄く思いました。
昔から噂話が広がって騒動になるのは世の習いなのでしょうか・・・
コロナの騒動にしても偽情報に惑わされる人のなんと多い事か!?深く考えさせられますね。