アカデミー賞ノミネート作品で韓国人監督の映画というと、すぐに「パラサイト半地下の家族」を思い浮かべるけれど、まるで違う。
よくある激しく人が死んだりしがちなウェットな韓国映画らしさもない。
さらに言うと、今までのアカデミー賞にノミネートされてきた作品ともちょっと違う。
劇的なことは確かに起きるけど、知っている韓国映画やアカデミー賞作品のような『劇的』な描き方は何もされていないので、少々肩透かしでもある。
このちょっぴりフランス映画だったり小津作品だったりするような、そんな雰囲気が逆に新しいのかも。(かなりネタバレしています)
「ミナリ」 公式サイト
80年代。ひよこ鑑定士で貯めたお金を持って、大きな農場を作ろうと夢を抱いてアーカンソー州へやってきた韓国人移民のジェイコブ。
妻は何もかも勝手に決めてしまう夫と喧嘩ばかり。
友達もいない、英語もそれほど話せない彼女は、心臓病を患う幼い息子の病院が遠いのも心配で、遂に自身の母親を呼び寄せる事にする。初めて会う祖母は破天荒で驚くことばかりだったが、孫のデビットは次第に懐いていく。
そんなある日・・・
酷い差別にでもあって、何もかもうまくいかなくて~~という話なのかと思ったら、一家は移り住んだ土地の人達からも温かく迎え入れられ一見、順風満杯のように見える。
そういう点からもあり得ない程の事件が起きるわけでもなく、移民の話ではあるけれど絶対的に誰にでも思い当たる話なのである。
例えば夫の仕事の関係で転勤を余儀なくされ、夫は仕事の事ばかり、自分は友達もなく言葉も通じない~というのは、まさに駐在員&転勤族あるある☆
トラクターを売ってくれたポールは畑を手伝わせてくれと懇願し・・・
ボロボロの服を着て日曜ごとに巨大な十字架を背負って歩いたり、不思議な呪文で家の中を除霊して回る姿は、一見頭がおかしいかのように見せて実は何かを知っているし、前の土地の持ち主が農場が失敗して自殺した原因に関わっているのかも?と匂わせるけれど、最後までそれは明かされない。
倒れたおばあちゃんが部屋の隅を見つめて「危ない危ない・・・」と言うので、何かがこの家に憑りついているかのようにあえてミスリードするのも実はこの映画のキモとなっていることに、見終わってしばらくしてから気が付くのだ。(実際は引き出しで孫が足を怪我したことを伝えたがっていただけ)
農場がうまくいかないのも、井戸の水が枯れるのも、取引先に騙されるのも、夫婦仲が悪化して別れ話にまで発展するのも、あたかもこの土地に巣くう悪霊のせいのようにみせて、
また韓国から呼び寄せた祖母が脳卒中で倒れるのも、まさかの火事を出して収穫した野菜が全滅するのも、あたかも彼女が疫病神であるかのようにもみせて
その実、この全ての災厄のおかげで心がバラバラになっていた家族は絆が強まり川の字になって眠り、孫のデビットの心臓も奇跡的に回復し、おばあちゃんのお陰で見事に育ったミナリ(セリ)は諦めずに1歩1歩進んでいく力をくれるのだった。
移民や農場経営の経験者ならずとも、誰もが生活の中で経験しそうなちょっとした躓きを、特別なこととせずに大地のような大きな気持ちで乗り越えていく後味の良さが、作品賞ノミネートに繋がったのかもしれない。
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この記事へのコメント
セレンディピティ
私も本作、見たいと思っていますので、(かなりネタバレとのことで)
うす~く拝読いたしました。^^
長引くコロナの影響で、アジア系へのヘイトが高まる今
こうした作品を通して、一般のアメリカ国民の理解が深まることを願います。
昔、日系移民の姿を描いた「ヒマラヤ杉に降る雪」という映画がありましたが
昨年のパラサイトに続いて本作がアカデミー賞の候補になったことに隔世の感を覚えます。
ノルウェーまだ~む
>
本編はほとんどが韓国語の映画なのに、外国語映画賞ではなく、アカデミー賞作品賞にノミネートされているという点でも、とても注目されている作品ですよね☆
実際監督は移民2世だけに、作風もアメリカン&韓国といった感じで、想像しうるウェットな韓国映画とは一線を画して意外にもカラリとしているところが面白いんですよ。
ネタバレしちゃって御免なさい~~鑑賞後に是非また感想をお聞かせくださいね。
ノラネコ
GG賞で外国語映画賞になっちゃったのが不自然なくらい、アメリカ映画らしい作品でした。
Nakaji
この映画オンライン試写会でみたんだけど、じっくりと映画館でみたいな~って思っていって来ようと思っています。
すごく派手な作品じゃないのにノミネートされたってことがなんかすごいなって思ってしまいました。
ノルウェーまだ~む
>
2世になると既にすっかりアメリカ人なのね・・・と、そういう点でも新鮮に観られました。
韓国人の心を受け継ぐアメリカ人の映画ってところでしょうかね☆
ノルウェーまだ~む
>
確かにちょっとアカデミー賞作品賞候補としては意外でしたよね~
オンライン試写会いいな~☆なかなか当たらないよぉ・・・
ごみつ
私も先日見てきました。
小品ながらとても良い作品でしたよね。
最初、プロデューサにブラピの名前が出たのであれ、と思ったのですが、これアメリカ映画なんですね。
てっきり韓国映画かと思ってたので、こういう作品がアカデミー賞にノミネートされるとは、時代もかわってきたんだな~っていう思いをあらたにしました。
この後、余力があったら(笑)私も記事にしてみます。ホント、最近、スタミナがないのです~~。ご無沙汰気味ですみません。(>_<)
ノルウェーまだ~む
>
お疲れ気味ですね~お忙しい中ご訪問頂きありがとうございます。
移民2世らしいカラッとした作品に仕上がってますよね。
ああ、2世ともなるとほとんどアメリカ人なんだなぁと、出演している半分英語・半分韓国語の子供たちを見て尚更感じました☆
無理せず感想書いてくださいませ~楽しみにゆっくり待っています♬
zooey
「タクシードライバー」の様にラストが感動的でもなく、「パラサイト」の様にショッキングでもなかったですね。
ディビッドとおばあちゃんとの交流がしみじみよかった。
ただ、あの下品なおばあさんを良識的な娘は嫌がらないのかと不思議でした。
文字も読めないというのは、英語のことなのかしらね?
ノルウェーまだ~む
>
躾に関して厳しい娘は、あのおばあちゃんに育てられたはずなのに、その辺はちょっぴり違和感がありましたよね。
この場合、義母と嫁という関係のほうがしっくりくるように感じました。
読めないのは英語なのでしょう。
英語も韓国語も堪能な2世ちゃんたちは逞しいですよね。
にゃむばなな
家族みんなで川の字のなって寝るシーンは、阪神大震災の時に家族みんなで同じ部屋で寝たことを思い出しました。
破天荒な祖母でしたが、生真面目な母親と自分勝手な父親を持つ子供たちにとっては、自分で考えて動く大切さをそれとなく教えてくれるいい存在でしたね。
ノルウェーまだ~む
>
そうだったのですね!?
中には震災離婚などもあったそうですけど、そんな時だからこそより家族の絆が深まった人たちも多かったのかもしれないですね。
先人の教えって有難いですよね~大変な時代を生き抜いてきた祖母だからこその知恵もあったと思います。
セレンディピティ
再びおうかがいし、今度はしっかりと拝見しました。^^
>ちょっぴりフランス映画だったり小津作品だったりするような
韓国発の映画とはかなり雰囲気が違いましたよね。
私は、ちょっぴり是枝作品みたいだなーとも感じました。
家族がテーマになっていたからかも。
映画を見ている時は気がつかなかったのですが
まだ~むさんの感想をうかがって、そういえば
スピリチュアルな要素もあったかも、と思いました。
一見やっかいもののようであったおばあちゃんが
(あ、でも私はおばあちゃんをひとりで留守番させるべきでは
なかったのでは?と思っていた)
最後は家族を救う存在になっていましたね。
ノルウェーまだ~む
>
再びコメントありがとうございます~
実は私は冒頭からかなりスピリチュアルを根底に置いている気がしていたのです。例えば前に住んでいた人を噂している住人があたかも呪われた土地のように話していたけれど、そんなことどこ吹く風の夫はダウジングも迷信と決めつけて最初信じていなかったりとか、悪魔払いする妻を冷ややかに見ていたり…
是枝監督作品!確かに似てました!!ある意味、アメリカ映画でも韓国映画でもなく、日本映画っぽいのかな?
ふじき78
ノルウェーまだ~む
>
ですよね~