「ファーザー」アカデミー賞主演男優賞受賞☆アンソニー・ホプキンスの名演技

主演男優賞を受賞しただけにアンソニー・ホプキンスの演技は実に素晴らしく、それに引けを取らないほどのオリビア・コールマンの名演技が涙を誘う。
そして斬新な認知症患者目線の映像と展開によって、こちらまで見事に混乱させられてしまうのだ。我々は主人公アンソニー(アンソニー・ホプキンス)同様そこに真実を見つけ出そうとするけど、答えはほぼ無い。
何とも胸が苦しくなる映画だ。

「ファーザー」アカデミー賞主演男優賞受賞作品
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娘のアン(オリビア・コールマン)が買い物から帰ってくると、世話をしてくれていたアンジェラを辞めさせたことを叱責された。
彼女は恋人のいるパリへ行くから年老いた父を一人にするのが心配だと言う。
ある日パリにいるはずのアンの夫がリビングにいたが、帰ってきたアンは自分の知らない女性だった。
別の日にアンは新しいヘルパーを連れてきたが、長い事会っていないアンの妹に似ているので上機嫌になり、タップダンスをしてみせると大笑いするので気分を慨してしまう。
ふと夜中に目を覚まして廊下に出ると、そこは見たこともない病院のドアが並んでいて・・・

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冒頭登場するアンはパリに行くと言っていたのに、次には夫とアンの家に居て二人は何やら自分を老人ホームに入れようと画策しているようだし、かと思うと別の男がアンの夫を名乗り、現れたアンは別の女性・・・と、見ているこちらがアンソニーと一緒に混乱していく。
さて、この中に真実があるのね?と思って見るがどんどん判らなくなってしまう。つまりこれこそが認知症の方の目線だということ。
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普段からクラシックを好んで聞いたりするアンソニーはかなり財産も教養もある人物だったことが判る。
その分プライドも高く、物忘れがひどくて時計を度々失くすのをヘルパーが盗ったと言って突然激高したりするのは、アンソニーのみならず一般的に認知症の症状の典型的なものの1つだけれど、それ以外の症状はあまり酷く描かれていないのが、ある意味この映画のミソと言える。
認知症の症状に関しては枚挙にいとまがないけれど、それを語っても意味がないし、逆に本人は完全にしっかりしていると思っている感覚が大切なのだ。
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妹の方を可愛がっていたとお気に入りのヘルパーに話す父に、ぐっと涙をこらえるアンの姿が痛ましい。
この涙は結婚もせず父を支えてきた自分に対しての涙か、はたまた妹の過去を思っての事か・・・?
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似たような間取りで似たようなドアが並んでいるリビングや広々とした玄関ホールが度々登場するけど、よーく見るとちょっとずつ違っている。これもまた細かい演出な訳だけど、そもそも外国の家はどれも似ていて日本人は余計気付きにくいかも・・・?
自宅にいると思ったのに?娘の家に越してきたと思ったのに?ここはいったい・・・?この感覚が映画の最も大切な部分となっている。

ヒューマンドラマでありながら感動的涙のハッピーエンドにはなっていない、静かに胸に深く刺さる映画となっている。
今年のアカデミー賞ノミネート作品はそのほとんどがこのタイプの終わり方で、非常にハリウッドも成熟してきていると感じた。

この記事へのコメント

  • セレンディピティ

    まだ~むさん、こんにちは。
    この作品、題材が題材だけに、見るのがつらくなるかも
    と躊躇していましたが、アンソニー・ホプキンズと
    オリビア・コールマンの演技を見てみたい
    と気持ちが揺れ動いています。

    認知症の方の見方で展開していく物語というのも斬新ですね。
    わけがわからなくて、いらいらしてしまいそうですが
    それこそが認知症の方が日頃感じているストレスなのでしょうね。
    2021年05月23日 17:39
  • ノラネコ

    この視点は新しかったですね。
    知識としては知っているけど、実際の患者から世界がどう見えているのか、これは確かに恐ろしい病気です。
    細かな美術や衣装の工夫まで、監督デビュー作とは思えない完成度の高さでした。
    2021年05月23日 18:55
  • ノルウェーまだ~む

    >セレンディピティさん
    >
    この映画が辛くないかと言われると否定は出来ないのですが、本作はそれを超えて必見の映画です!
    数多くの認知症をテーマにした映画があり、ほぼほぼ美しい所だけを切り取り、感動的な着地点を用意しているものばかり(あまり観ないので確証はないですが)な気がしますが、本作も介護者の本当の大変さはそこまで描かれていないです。
    その代わり認知症の方がどんなふうに感じているかを体験できる非常に稀有な作品なんですょ。
    是非、オススメします!!
    2021年05月23日 23:10
  • ノルウェーまだ~む

    >ノラネコさん
    >
    斬新な視点でした!!
    あえて似たように見える家の間取りをじっくり見せることで、患者と同じ体験をさせるという発想は見事でした。
    この監督ってデビュー作だったのですか??ちっとも知りませんでした~
    これは今後が楽しみですね☆
    2021年05月23日 23:13
  • にゃむばなな

    認知症についての理解を深めるために、あれこれと説明を聞くよりも、この映画を見る方が断然認知症に対する理解が深まるような気がしました。
    私たちが普段見ている世界とは少し違う、ミステリー映画のような世界に認知症患者はいる。
    これを知れただけでもこの映画は素晴らしいのに、アンソニー・ホプキンスのこの名演を見せられると、もう感服するしかないですよ。
    2021年05月27日 22:58
  • ノルウェーまだ~む

    >にゃむばななさん
    >
    アンソニー・ホプキンスの演技、素晴らしかったですね。
    本来、認知症の方が本当のところどう見えているのか?どう感じているのはなかなか健常者には理解出来ないし、まあ絶対的に当事者にしか分からないことなんですけど、そこを踏まえてもその一部を垣間見る事を可能にしてくれた監督に感謝ですよね。
    2021年05月28日 14:06
  • zooey

    これは観るのがつらい映画でしたね。
    映画が始まって割とすぐ、娘の顔が入れ替わりましたが
    終盤の施設の介護士の顔を見て、腑に落ちました。
    現実と妄想が入り混じって、どれが伏線やらよく分かりませんでしたが、
    あれは見事でしたね。
    2021年05月31日 21:07
  • ノルウェーまだ~む

    >zooeyさん
    >
    そうして考えると、かなり早い段階で既に施設に入っている状態だったのではと考えられますね。
    映像はアンソニーの妄想なのか記憶なのか、時系列も過去に遡っているのか、見ているこちらも混乱しますが、それがまさに狙いで、これこそが認知症患者の脳内体験となるのだと目から鱗でした。
    2021年05月31日 23:52
  • ごみつ

    こんばんは。

    これは私も是非見たい!と思ってます。
    やっと映画館も再開したし、何とか時間をとりたいな。

    認知症患者を描いた作品は幾つもあるけれど、患者の視点からの描写っていうのが斬新ですね。
    どんな風に映像化しているんだろう。

    アンソニー・ホプキンスとオリビア・コールマンの演技の掛け合いも楽しみです。(*'ω'*)
    2021年06月03日 21:55
  • ノルウェーまだ~む

    >ごみつさん
    >
    映画館の再開、嬉しいですよね~
    なのに時間が取れないという・・・(涙
    アンソニーは勿論のこと、私はオリビアの演技が本当に見事だったと思います。

    この映画は何とか時間をやりくりしてでも是非観てほしい映画です!是非ぜひ~~
    2021年06月05日 00:27
  • ふじき78

    アンソニーがこんな哀しい目に会うなんて「キャンディ・キャンディ」以来だ。
    2021年10月22日 00:48
  • ノルウェーまだ~む

    >ふじき78さん
    >
    ああ、アンソニー☆
    2021年10月22日 20:18

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