「MINAMATAーミナマター」写真に込められた魂の温かさに涙

正直嬉しかった。
イケメン枠からも白塗りキャラクターからも脱却し、更にプライベートの様々な困難をも乗り越えて、選んでくれたのが年齢相応の一人の人間的な人物であるだけでなく、その舞台が日本で、しかも公害被害に関するテーマであったうえにジョニー自身がこの深刻な問題にに強く関心を持ってくれているのだから・・・

敵であるチッソ社長までもが心を打たれて眼に涙を滲ませた、撮影者の魂が込められた写真こそが真実。この真実に涙しない者はいないでしょう。
「MINAMATAーミナマター」 公式サイト
ミナマタポスター.jpg
かつては高名な戦争写真家であったユージン・スミス(ジョニー・デップ)は、戦地で撮影していた時の悪夢にうなされ、酒におぼれる日々を送っていた。
日本の富士フィルムのCMオファーを受けた際、通訳としてやってきたアイリーン(美波)から水俣で起きている現実を写真に収めて世界に公表して欲しいと頼まれる。
訪日して見たのは水俣病に侵され苦しむ患者と、彼らを優しく介護する家族、そして抗議運動を阻止しようとする巨大企業だった。
彼らと共に水俣で暮らすうち人々の信頼を得たユージンだったが、企業からの数々の妨害うけ・・・

ミナマタ現像.jpg
赤いネオンの現像室でアイリーンと二人きり。現像の仕方を教えながら優しく写真を撫でる様子は、非常にエロチックでありながら決してそういう展開にならない。(アイリーンからキスをするけれど)
てっきり監督は女性かもしくは日本人なのでは?と思ったけれど、監督はれっきとした男性でしかもアメリカ人。
ジョニーを使ってこのかんじ!しかも大変デリケートなテーマをしっかりウエットに、だけどもお涙頂戴に仕上げずあくまでもカメラを通した第三者の視点で描いているところも素晴らしい☆
ミナマタ工場.jpg
巨大企業が金と暴力で解決しようと企む日本の縮図。 公害被害に遭われた方の犠牲のうえに我々の便利な生活があることを認識していないことに改めて考えさせられた。
水俣病問題がまだ解決に至っていないということを今回初めて知った私。
SDGSなどと言ってお洒落に環境保護を訴えるのが今の風潮みたいになっているけれど、まだ世界中色々な場所で深刻な公害の被害が起きていること・過去の公害被害はまだ未解決であることをこの映画を機会に考え直す時が来ているのではないかしら?
ミナマタ少年.jpg
出演している患者たちは演者なのか?患者なのか?とにかく迫真の演技は素晴らしいとしか言いようがない。

時々ジョニデであることを忘れさせる見事な演技。
豪華な日本人俳優たちも皆すばらしく、特にアイリーンを演じた美波の落ち着いていてどこか包容力のある雰囲気が光っていた☆
ユージン・スミス ~水俣に捧げた写真家の1100日~ - 山口由美
ユージン・スミス ~水俣に捧げた写真家の1100日~ - 山口由美
問題が深刻であるにもかかわらず写真展を見て回るような美しい映像が多く、やや単調で悠長に感じたのが唯一残念な点。
でも逆にそれこそがユージン・スミスその人を表しているとも言えるのかも☆
企業の暴力によって脊椎を折られ片目も失明したユージンが、それでも水俣の患者たちに寄り添おうとしてくれた事実。彼の魂があの「入浴する智子と母」の1枚に全て込められた瞬間は胸が熱くなる。
今年絶対観ておきたい映画!!

この記事へのコメント

  • ごみつ

    こんばんは。

    この映画は、本当に私も嬉しくなりました。

    本来なら日本で映画化するべき内容でありながら、ユージン・スミスがアメリカ人であったとは言え、ここまで誠実に映像化してくれた事に感謝したいです。

    本当の患者さんは高齢になっているので、恐らく全員俳優さんが演じてるんだと思いますが、臨場感ありましたよね。事実から目をそらさずに描写していたのも凄かった。

    私がもっとも感動したシーンは、チッソ前の患者の集会で暴動が起きた時、ユージン・スミスがアイリーンに、「感情に動かされるな。何を撮るべきかだけに精神を集中しろ」ってアドバイスしたところと、「写真は撮られるがわだけではなく、撮る方も傷を負う事になる。」っていうセリフ。

    彼のプロのカメラマンとしての内面を強く感じさせられたシーンでした。
    2021年10月07日 01:14
  • にゃむばなな

    水俣病は世界にたくさんある公害の一つであると同時に、一枚の写真により世界中にその実態が知れ渡った史実でもある。その一枚の写真が誕生するまでの物語に徹しているところがいいですよね。
    他の郊外に関しても、もっと写真を、資料を、現実を見てくれ!と言われているようで、一人の人間として素晴らしい作品に出逢えたと思いましたよ。
    2021年10月09日 23:59
  • ノラネコ

    昔の話と思っていた水俣病が、今なお続いている問題だと、映画を観た後に調べて知ってビックリ。
    デップも素晴らしかったのですが、個人的には一番印象的だったのは國村隼でした。
    悪役なんだけど、複雑な人間性を持っていることを、表情の演技で巧みに表現されていて、これぞ外国映画で活動する俳優に必要な資質だよなあと感心しました。
    2021年10月10日 16:55
  • ノルウェーまだ~む

    >ごみつさん
    >
    本当にその通りですね!私もそのセリフにぐっときました。
    何より『撮る方も傷を負う』という発想は、まさにユージンが誠心誠意この被写体に向き合った証拠と思うんですよね。
    それだけに魂がこもった一枚一枚になったのだと思います。
    ウィキには本当の傷を負わされた後、「患者さんたちの怒りや苦しみ、そして悔しさを自分のものとして感じられるようになった」と語ったというのを知って驚くとともに、ある意味納得しました・・・
    2021年10月10日 23:53
  • ノルウェーまだ~む

    >にゃむばななさん
    >
    日本人監督で撮影したら、『その一枚の写真が誕生するまでの物語に徹する』ことが出来なかったかもしれませんね。
    お涙頂戴にせず、また聖人君子のようにもあえて描かなかったのが逆に良かったのだと思います。
    2021年10月10日 23:59
  • ノルウェーまだ~む

    >ノラネコさん
    >
    私もそうなんです!すっかり過去の公害被害と思い込んでいましたが、患者さんは一生背負っているわけですし、確かに簡単に終わった問題と片付けられないわけですよね。

    国村さんは見事でした!結局のところ誰かを傷つけようと企んでいる悪者ではない訳で、あの繊細な表情にそれがちゃんと現れていて感心しました。
    2021年10月11日 00:24
  • ふじき78

    あまり有名な人じゃないのかもしれないけど、若い人で「僕のこと怖くないの?」ってセリフにはやられましたね。怖いものね、知らないと。
    2022年02月27日 22:06
  • ノルウェーまだ~む

    >ふじき78さん
    >
    確かにそのセリフ重要ですね。
    知らないものって怖いですものね、普通。
    それとは逆に知らずに汚染された水を生活用水で使っていた恐怖。知らなかったから怖くなかったんですものね。
    2022年03月01日 13:49

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