バイユーというのはミシシッピ川の支流で主にデルタ地帯にある湿地帯の川を指すのだという。
映画はワニがいるような緑の藻に覆われた湿地の川というよりも、静かにたゆたう雄大な川の流れを思わせて実に美しい。
「ブルー・バイユー」(2月11日公開) 公式サイト
3歳で養子に出されてアメリカへ渡って来たアントニオ(ジャスティン・チョン)は、キャシー(アリシア・ビカンダー)の連れ子ジェシーが自分をパパと慕ってくれるのが愛おしく、これから生まれてくる自身の子供と共に家族を支えようと職探しをしていたが、前科があるためなかなか上手くいかなかった。
ある日、キャシーの別れた夫の同僚により不当に逮捕されたことで、移民局へ移管され30年前の書類の不備が発覚、生まれ故郷の韓国への強制送還を命じられる。弁護士費用を捻出するためにアントニオは・・・
この日は愛する家族のためやらかしてしまった不器用な男代表で、田村亮さんが登壇(笑
観客の撮影タイムもあったので間近で元気な姿を見られて良かったwa☆
と言う事で(笑)想像通り、主人公は裁判費用を捻出しようと犯罪に手を染めてしまう訳なのだけれど、過去に悪い仲間と2度もバイクを盗んで逮捕歴があるために就活が上手くいかないのがそもそも・・・と前半は誠実で優しいのにギリギリラインで生活している彼に歯がゆい気持ちになってしまう。
これが後半、愛するキャシーにも決して明かしていなかった親との関係を告白したあたりから、ぐぐぐぐぐぐっとアントニオへの感情移入が高まり、もう涙がこらえられなくなってしまうのだ。
前の夫は警察官で見ているとさほど悪いやつではないように描かれているのに、娘のジェシーが自身の父親のどこを嫌がっているのかが詳しく描かれないので、そこだけは唯一しっくりこない。
ただ、娘としては父親から見捨てられた=選ばれなかったことが大きなトラウマになっているというのが、この映画の重要なテーマとなっている。
たまたま出会ったベトナム人女性は2つのピースボートで渡米し、別のボートに乗っていた母と兄を亡くしていた。何故、同じ船に乗らなかったのか?とアントニオに聞かれて、「全滅しないためよ。」と静かに答えた彼女の言葉に主人公同様打ちのめされてしまった私。
家族が運命を共にする選択肢もあれば、一族の存続のために別離を選ぶ。自然体で運命を受け入れている彼らにどこか緩やかな大河の流れが重なるのだった。
自身が主人公も演じているジャスティン・チョン監督。
映像は時に手持ちカメラでドキュメンタリー風に荒々しく、時にアカデミー賞「ムーンライト」を思わせるような美しい映像にと緩急ついていて秀逸。
川の流れがまだ見ぬ韓国の母とリンクする幻想的なくだりは実に美しい。
たまに荒削りなところも感じるけれど、それがかえって「書類の手続きの不備のせいで強制送還させられる多くの人々がいる現実」を炙り出すのに適しているように思える。
挿入歌でもあるリンダ・ロンシュタットのブルー・バイユーが静かな川の流れと、運命を受け止めて身を任せる人生を思わせるのだった☆
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この記事へのコメント
ここなつ
>家族が運命を共にする選択肢もあれば、一族の存続のために別離を選ぶ。自然体で運命を受け入れている彼らにどこか緩やかな大河の流れが重なるのだった。
そうそうそうでした。ここ、とてもポイントとなるシーンでしたよね。
それほど、祖国を出立して(捨てて)新しい国で暮らすということは、なまじな覚悟ではできないということなのでしょう…
ノルウェーまだ~む
>
自ら国を捨てて生きる道を見つける人も居れば、自分のあずかり知らぬところで養子に出され人生に翻弄されてしまう人もいるのですよね。
そういった意味では日本は実に平和で、船で国外脱出せずとも子供を養子に出さずともいられるなんて、本当に凄い事なんだと気付かされました。
latifa
試写会に行かれたんですねー。
おお、あの田村亮君が来ていたのか・・・。
いやー、アントニオが気の毒だな・・・と思いましたよ。
養子先でも苦労していたなんてね・・・悲しい・・・。
アメリカで、つい最近まで、こういうことがまかり通ってるんだなーっていうことにも驚きました。
ノルウェーまだ~む
>
コメントありがとうございます~
アメリカの制度を良く知らないのでその辺難しいですよね?色々勉強になりました。
私、大事に育てられないのに何で養子取るんだろう?って不思議なんですけど、労働力のためとか色々あるのかもしれないですね。
ていのいい人身売買とも思えてきます。
折しも「ベイビブローカー」観てきました。世界の子供たちが愛されることを切に願うばかりです。
ふじき78
ノルウェーまだ~む
>
確かにそうなんですよ。
私も自分ならたった一人残されるより、家族揃って運命を共にしたいと思いますが、やはり多く搾取され続け壊滅の危機にさらされてきたベトナムという環境が、この感情を導き出したのだと感じます。
国によって考え方も感じ方も違うのでしょうね。