MadeGoodFilmsさんのオンライン試写で鑑賞。
メキシコシティで許可を得ずに闇営業する救急車で生計を立てている一家に密着したドキュメンタリー。
これがドキュメンタリーということを忘れてしまう程、画角が美しくストーリー性もありスリリングで一つも飽きさせない驚きの仕上がりになっている。
「ミッドナイト・ファミリー」 公式サイト
人口900万人のメキシコシティでは45台しか公共の救急車がないことから、私営の救急隊の出動に頼らざるを得ない現状があった。
オチョア一家は許可を取るためのお金がなく、闇で救急活動を行っていた。現場へいち早く運転しテキパキと指示を飛ばすのは17歳になったばかりの長男のホアン。父はいつもお金がなく末の息子ホセにお金を借りる日々だが、ホセは学校にも行かず夜通しの救急車に乗るのが好きだった。ある晩、4階から子供が落ちが事故があり・・・
ホアンはなかなかのイケメンだしあまりに自然体なので役者さんなのかな?と思ってしまうくらい。いやいや、これはドキュメンタリーだったんだ・・・
夜に救急車のライトに照らされた顔は映画「ムーンライト」のように美しく、どこか怪しげ。画角が絶妙で、今までのドキュメンタリーにありがちなブレる手持ちカメラで臨場感を出す技法と真逆の安定した画面が、よりこのドキュメンタリーをファンタジックに見せている。
次々と運ばれる患者たちは血まみれだったり反応が薄かったり、酷く痛がったりと様々なのだけれど、彼らの顔をあえて映さず、定点カメラのように映して客観視させることで、オチョア一家の行為の善悪の境目のちょうど真ん中に立たせることに成功している。
さすが4年もの月日をかけてじっくりと彼らに密着しただけのことはある。
4年も密着したのに末っ子の成長はあえて示さず、いつもお兄ちゃんに「勉強しろ。しないとこうなるぞ。」と諭され続けて、それでどうなったのかも映画には出てこない。まるで1か月くらいの密着レポのようにしているところも逆に良い。
お金が無くて1日2回タコスを食べるだけとボヤいているのに、案外ふとっちょなのはお菓子ばかり食べているからなのかな?
いのいちに駆け付けて病院へ運んでもお金が無いからと言って支払いを拒否する人もいるし、様々な機材も用意して痛み止めを注射したり、誠心誠意患者に寄り添うオチョアたちは大層立派に見える。
そんな彼らを許可証が無いと言っては逮捕しようとして賄賂をせびる警察官にも苦しめられ、常に貧乏暮らしを強いられているけれど、見ているうちにふと気が付く。
彼等は確かに無許可なのだ。無許可でもブラックジャックならいいけど、彼らは救急医療の知識があるわけでもなく、でも聴診器を下げて酸素吸入もして、確かに息をしていなかった赤ちゃんの息を吹き返すこともする。
彼らはボランティアではないし、公営の市民病院なら安いのかもしれないのに、どうやら結託している小さな病院へ運ぶことでマージンを貰っているようでもある。そんな救急車が来たら嫌だな確かに・・・
社会のシステムとして、こうした私営の救急隊に無料で救急講習したり本来なら補助を出すべきなのに、しかし映画はそんな彼らを英雄視もせず犯罪行為として炙り出しているわけでもない。
ドキュメンタリーでありながらグイっと寄らず、引きの映像を多用することで客観視させるテクニックは見事としか言いようがない。
「一晩くらい休んじゃおうよ。そしたら皆本当に困るんだから。」というホアンの言葉に思わず大きく頷いてしまった。
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