ギレルモ・デルトロ監督の異形愛はほどほどに、本物の獣は「人間」の中に居る事を描いた作品。
彼の作品特有のおどろおどろしい雰囲気はタップリに、だけど予告編で期待させるほどには恐ろしい生き物は登場せず、じっくりドラマを見せていくと次第に獣が顔を出してくるしかけ。
「ナイトメア・アリー」 公式サイト
スタン(ブラッドリー・クーパー)が何もかも捨てて流れ着いたのは、怪しいカーニバル一座だった。そこで雑用の仕事を得たスタンは、酒浸りのピートがひた隠しにしている読心術のノウハウを記した本を盗み、仲間のモリー(ルーニー・マーラ)を連れて都会を目指した。
ホテルのショービジネスですっかり成功したスタンだったが、ある日読心術を見破った心理カウンセラーのリリス博士(ケイト・ブランシェット)に近づき、さらなる儲けを目論んで禁断の交霊術に手を出すと・・・
前半はギレルモワールド全開で怪しげなムードたっぷりなのだけれど、出し物に登場するのはびくびくと身構えたほどの「獣人」は登場せず、アヘンで朦朧となっている薬物依存症の「人間」。ギレルモ監督にしてはおや大人しいな?と思うけれど、実はここが重要なカギとなってくる。
思えば私が小学生の頃お祭りの見世物小屋の看板に「ろくろ首」や「牛の身体を持つ人間」とかが描かれていて、実際見世物は見ないのに後10年以上トラウマになっていた。きっと中に入ったら花やしきの見世物小屋みたいに、案外『木の板に血が付いていて=いたち』とかそんなものだったかもしれないが、真実を確認しない事でよりトラウマが深く残ったのだと思う。
今ではどんなグロイ映画も観る人になっている私・・・(爆
映画では気が付かなかったけれど、スタンの背中に傷がある⇧ことからも、アル中の父に虐待され父親のような年の男と「酒」を憎んでいることが示唆される。そして「たまたま」だけど年上のブロンドの女性に惹かれるところから、そこに母の面影を見ていると考えられる。
スタンと恋に落ちるモリーはショーの手伝いをするが不器用で失敗が多く、心の安らぎは昔のカーニバル仲間だった。そんなモリーの心境に寄り添うような演出が少なかったのは、普段から表情がハッキリわかりにくい「異形の者」への愛情が深すぎて、人間の表情の作り方を忘れちゃったのかな?
心を読まれないように表面は取り繕っても心の中でバチバチのバトルを仕掛け合うスタンとリリス博士は別として、モリーの心情をもう少し描いても良かったような?
アカデミー賞作品賞で惜しくも賞を逃したのは、人間の内面を描きながらも、ラストの『因果応報』に帰結させる前のネタバレを恐れて、主役のスタンだけでなく我々にも「その人の心情」をあえて?読み取らせないようにしたからなのかも…
冒頭の衝撃的な演出の後は、前半のカーニバル一座のシーンはブチブチとエピソードが切れる感じがしたし、展開がまったりしていたけれど、リリス博士と出会って煌びやかなのに闇の方向へ踏み出すと途端にハラハラの心理戦が繰り広げられ目が離せなくなる。
ついにスタンの獣が顔をのぞかせ破滅の道を進みだすと、ある時点でラストのオチが想像出来てしまう訳だけれど、彼の中の獣のおかげで仕方ないねと思わせてくれるところは実に秀逸☆
そんな彼をじっと見ているホルマリン漬けの奇形の胎児。もしかしたらスタンが生まれたときに母が亡くなって?そこからもう運命が決まっていたのかなとふと思った。
この記事へのコメント
きさ
ギレルモ・デル・トロ監督にしては珍しく超自然的描写はありません。
1946年に発表された原作に忠実みたいです。
前半のカーニバルの怪しいムード、後半のノワール的展開が面白かったです。
主人公のブラッドリー・クーパー始め、ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、トニ・コレットといった俳優陣は好演しています。
常連のロン・パールマンももちらん出ています。
ボディガード役で良く見るコワモテ俳優が出ていてホルト・マッキャラニーという人でした。
最近では「キャッシュトラック」に重要な役で出演していました。
メアリー・スティーンバージェン久々に見ました。さすがに老けましたね。
ちょっと2時間半は長いですが、なかなか面白かったです。
ノルウェーまだ~む
>
コワモテ俳優のホルトさんは私も気になりました。
前半は少し悠長な気がしてましたが、後半は怒涛の展開で目が離せなくなりましたよね。
瞳
ご覧になったんですね!!デル・トロ監督なのでこれは観たい!!と思っているのですが、どうやらレンタルか配信になりそうです。
観るまで、まだ~むさんの感想お預け・・・なのに、見世物小屋のくだりに思わず反応~(笑)
ありました、ありました!!お祭りのあの看板!!私も入ったことはありませんでしたが、子ども心にものすご~~く怖くって。
確かに見てないことでより、トラウマになって残ってるんでしょうね。
ノルウェーまだ~む
>
からくりを知ってしまえば何てことないのですけど、逆に想像を搔き立てて恐怖が膨らんでいくんですよね。
まさにそんな怪しげな雰囲気がたっぷりで、その裏に隠されたトリックとその技に溺れて破滅していく様が絶妙でした。
配信までお預けは、それこそ「ろくろ首」になっちゃいそう~~(笑
風情☭
おっしゃるように大概の見世物小屋なんて 「 六尺の大いたち 」 同様に
「 幽霊の正体見たり枯れ尾花 」的なものなんでしょうね。
こういう出しものを観ておけばヨカッタと今になって思うばかりです。
それはそれとして、オチを読み切れなかったんで、オチを知ったときは
素直に感動しちゃいました。
そのお陰なのか? 他の人より評価が気持ち高めです♪ (゚▽゚)v
ノラネコ
こんなピカレスクな男も演じられるとは。
全てを見通す千里眼を持ったつもりで、実はもっと大きなものに囚われたまま。
悲しい男の転落劇でした。
ノルウェーまだ~む
>
いえいえ、オチが途中で分かっていても、やっぱりそのセリフきたー!ってかんじでニヤリと出来たので、私は満足でしたよ。何しろリメイク作品だそうで、もともとオチも判っているという体だったと思われます。
私は10年ほど前に、日本で最後の見世物小屋というのを花園神社で見たことがありまして、その時は娘に懇願されて入ったのですが、蛇女が本当に蛇を飲んでいて心からビックリしました。あれ?飲んだように見せたのかな??
ノルウェーまだ~む
>
何事も自信過剰になってはいけないと言う事でしょうかね。
やっぱり男は大きなクモの巣に知らぬうちに絡めとられる運命なのかもしれません。
SGA屋伍一
あとクライマックスの富豪さんへのトリックはどうしたってバレるだろ、と思いましたw あの瞬間の気まずいけど笑えるムードがなんとも言えませんでした
あとブランシェットさんとロン・パールマンは同じアカデミー候補作の『ドント・ルック・アップ』ともかぶってますね。売れっ子だなあ
ノルウェーまだ~む
>
確かに!あのなんちゃって幽霊がどうにもこうにもお粗末ですから、あれで上手くいくと思ったスタンがいかに世の中舐めていたかが良く判りましたよね。
実力派俳優さんたちは、あちこちの作品でしっかりと爪痕を残して凄いです~☆
ここなつ
まだ~むさんの記事の中で、小さい時のお祭りの見世物の看板の話がありましたが、ホント激しく同意します。実際に見たことはないけどすっごく怖かったという所まで…。多分、当時ってタブーを表に少しだけ出して扱っていた時代で、実はそういう方が、何もかも「コンプラ」の今よりも色々と感性が豊かになったのかも。
因果応報な感じがまた良かったです。
ノルウェーまだ~む
>
こういう見世物小屋的なものって、本当に見た時より見なかった時の方が想像が膨らみ過ぎて怖かったりしますよね(爆
子供の頃の想い出が似ていて嬉しいです☆
現在はコンプラ天国になっていて、本当に堅苦しいですよね。誰もが人に優しくできる世の中ならば、こんなにガチガチにしなくても良いのに~と思います。
「グレイテストショーマン」や「エレファントマン」の所にも書きましたけど、当時は非常に人気があって彼らは誇りをもって仕事をしていた訳で、こういったコンプラのために職を失ったり狭めたりといった面もあると一概に良いとか悪いとか言えないですね。
にゃむばなな
この部分が凄く共感出来ちゃいます。
それがギレルモ・デル・トロ監督なんですもんね。
ちょっと笑わせていただきましたよ。
ありがとうございます。
ノルウェーまだ~む
>
その点ブラッドリー・クーパーは立派にやり遂げましたよね。
なのでもっと人間の感情を役者の力量に委ねるべきだったのでは?と思ってしまいました。
まあ、それが「表情が変わらない『異形』の人形愛」の強いギレルモならではと言えばそうなのですが・・・
表面的に感情を見せないけど、心の中を察する・・・点では、人間は異形の者よりずっと無表情の仮面をかぶっていると言う事なのでしょうか。
latifa
上のコメント欄の中で、見世物小屋の人が仕事に誇りをもってやっていて~コンプライアンスが~ っていうの同感です。
でも大昔だと人身売買みたいな感じで、やらされてた人もいたかもしれないし、まあ現代ではこの手の巡業は難しいですね。
明治神宮御苑の中に、こんなにきれいなお花たちがあるとは、知りませんでした!菖蒲・あやめも美しいけど、蓮も素敵ー♪
綺麗な画像一杯見れて嬉しかったです。
ノルウェーまだ~む
>
ありがとうございます~おでかけ記事も読んでいただいて光栄です。
私も明治神宮の中の花菖蒲田がこんなに広大だとは知りませんでした。正直明月院のより立派でしたよ☆
確かに色々な事情で見世物小屋へ流れて来た人も多かったかもしれませんが、スタンのように自ら~と言う人たちも大勢いて、案外そこからスターとなったら大切にしてもらっていたのかもしれませんね☆
瞳
コメントありがとうございました。
鑑賞してからまだ~むさんの感想を再び読むと、なるほど~!!と思うところが多かったです。
>そんなモリーの心境に寄り添うような演出が少なかった
そうでしたね~、モリーは自分自身を前に出すキャラではなかったので、よけい大人しく描かれていたのかな?と感じました。
チョコレートと本が癒し・・・ていうところがとっても好き(笑)
ダメダメな男が好きなので(映画の中だけでですが 笑)スタンの破滅っぷりが悲しいのですが、ラストの彼の表情、笑いにはゾクゾクするものを感じました。
ノルウェーまだ~む
>
ダメ男好きだったのですね!?(爆
モリーの大人しい感じは良く出ていましたね。言葉少ない彼女が急に昔の仲間の所に帰って行くあたりは、出来ればもう少し寂しげな表情に迫った演出も欲しかったかな~
ラストのスタンの破滅っぷりと運命を受け入れた彼の笑いに、まさにゾクゾクしちゃいましたよね!!
ふじき78
ノルウェーまだ~む
>
隠せば隠すほど妄想が膨らみますね(笑)