Netflix「西部戦線異状なし(2022)」アカデミー賞ノミネート作品☆1930年版オリジナルとの違い

そろそろアカデミー賞発表の季節。ノミネート作品で見られるものは見ておきたいなと思い、アカデミー賞を受賞した1930年のオリジナル版とネトフリでのみ公開中の2022年度版を一気見してみた。

「西部戦線異状なし」 2022年度版 ドイツ
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親の心配をよそに、意気揚々と兵士に志願した17歳のパウルは学校の仲間と共に前線に送られると、いきなり激しい戦火にまきこまれていった。
食べ物もなく塹壕の中を走り回り、周囲の兵士が次々と死んでいく前線で唯一心の支えとなったのが先輩兵士のカットだった。
新入りの部隊が到着しない事で捜索に出たパウルたちは、フランスの毒ガス攻撃に町が一網打尽にされ、戦局が危ない事を実感する。
遂に休戦協定が決まった11月11日11時の前に、何とか前線を前へ進めたい将軍は最後の突撃を指示するが・・・

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本作はドイツの作家エリッヒ・マリア・レマルクの小説を、本国ドイツでリメイクしたもの。
カラーでドイツ語な分リアリティがより増している。
ストーリー展開は分かり易かったオリジナル1930年版を更に単純にしていて、日本軍の上官のような威圧的な鬼軍曹は出てこないし、主人公パウルが怪我を負って入院し実家へ一旦帰る部分をごっそり削って、その分激しい戦闘シーンをしっかりと描いている。
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私としてはオリジナルでパウルが塹壕の中から見上げるシーンで、フランス軍が優勢になって右から左へ塹壕を飛び越えて行って、すぐにまた左から右へ逃げ帰って行く様子で、この戦場の最前線が『ほとんど動かない』=ドイツ語の原題「Im Westen nichts Neues」(特に戦況に変化なし)のままだということを表現している点で秀逸と感じている大切なシークエンスが、今作では敵味方入り乱れて訳わからなくなる・・・といったシーンに置き換えられている。確かにシニカルに表現しているオリジナルよりずっと大真面目なでいいんだけど・・・
西部戦線異状なし(吹替版) - リュー・エアーズ, ルイス・マイルストン
西部戦線異状なし(吹替版) - リュー・エアーズ, ルイス・マイルストン
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1930年版はアメリカ映画。なので皆英語を話している。
またオリジナルで先輩のカット他、登場人物たちは皆大変特徴的で荒くれな印象なのに対し、今作のカットは特に平凡な容姿でいささか印象に残りにくい。童謡(?)の歌詞のように農夫に殺される最期より、オリジナルのカットの最後の方が心に沁みた私。
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敵の塹壕の美味しいフランスパンを盗み食う兵士たちと対照的に、参謀・政府官僚たちの食事は豪華。戦地を這いずって泥にまみれる若い兵士たちと交互に、肉を飼い犬に投げグラスのワインの最後の一口を何故か床に捨てる将軍のシーンが戦争の愚かさをより際立たせて秀逸。

実家の親たちが最前線の苦労も知らず、にわか軍師になって戦局を好き勝手に論じるオリジナルのシーンは今作にはなく、たった一人の狂人(将軍)の、ただ自分の戦績を残したい一心で敗戦を認めようとしない点は、今まさにたった一人の狂人により引き起こされているウクライナ戦争を意識していると言えるかもしれない。

平地の多いウクライナにロシア兵が侵攻して勝手に掘った塹壕に、爆弾を投下する実際の映像がこちら。塹壕が100年前の戦争を描いた今作とあまりに同じでビックリ。
第一次大戦のときと違うのは、ドローンでその映像が撮影されているということくらい。東部戦線はいまだに『異状なし』(=変化なし)なのである。

この記事へのコメント

  • セレンディピティ

    まだ~むさん、こんばんは。
    私は意外と戦争映画が好きなので、この作品もNetflixに上がった時から楽しみにしていたのですが、過去一残酷シーンが多い戦争映画と聞いて、見るのを躊躇していました。
    でもやっぱり見応えがありそうですね。う~ん、どうしましょう。
    まだ~むさんは旧作もご覧になっていらっしゃるのですね。
    本作は撮影技術の進歩もあり、よりリアルで迫力があったことと思います。

    この壕は、「1917」や「戦火の馬」など、第一世界大戦を舞台にした映画で見ましたが、それが現代のウクライナでも作られているということが興味深いです。
    2023年02月11日 23:45
  • ノルウェーまだ~む

    >セレンディピティさん
    >
    ビックリですよね!?100年前の戦争と同じ方法で今なお戦争が行われているという・・・しかも、ドローンで丸見えの塹壕なんて、兵士の無駄遣いとしか思えません。

    過去一残酷シーンですか??私のイメージでは「1917」と同じくらいな印象でしたyo。勿論それよりはナイフで戦うシーンとか多いですが、沖縄戦を描いた「ハクソーリッジ」の方がよほど残酷でした。当然のように「野火」よりは全く残酷ではないです。
    ご心配なら白黒のオリジナルのほうからご覧になられると、安心できるかも!
     
    2023年02月12日 16:25
  • こんばんは。

    露宇のどちらが攻めているのか、分からない不思議な戦争になってしまいましたが、ウクライナの土を掘り起こすのも大変な労力ですよね。塹壕に隠れて、銃弾や爆弾をやり過ごすような、古い戦争は絵に成らないですが、彼ら兵隊は何をやって居るんだろう、と、真冬の戦争の苦難には、爆撃に執拗に追われるロシア兵が逃げるようにせわしなく「迷路」を動き回って、それが命令である以上、一抹の同情をすら感じます。

    本当に、当事国のリーダー達は何をやって居るのかなと。激務が大変なのは理解出来ますが、実際にも、兵隊が命を掛けて居るのに、上がこういった行動を取って居るのはあり得そうなシークエンスですね。逆に、平和過ぎだとこういう真実は出て来ない気もします。頑張ったり、試行錯誤するのは当り前で、政治家が楽な仕事では困りますから、命を張った決断は重いです。

    戦争を起こしたリーダーは、自分が戦線に立つべきだと思いますが、こんなに惰弱だったのか!と、古い戦争と古い英雄には幻滅も感じて居ます。
    2023年02月12日 22:57
  • ノルウェーまだ~む

    >隆さん
    >
    第一次大戦の古い戦争が、まだ今なお同じ様に行われているというのにびっくりしますよね・・・
    ロシア兵はドローンでも丸見えな状況でありながら、このような古臭い戦闘方法で挑まなくては行けなくて、ある意味狂ったトップのために無駄な命を落とす被害者でもありますね。
    ただ軍隊で訓練を受けている兵士ではなく、金で雇われたロシアの兵士たちは塹壕をただ逃げ回るだけと聞いています。
    いずれにしても戦争は愚かな行為だとしか言えませんね。
    2023年02月13日 14:40
  • ごみつ

    こんばんは。

    All Quiet On The Western Front! 
    昔のオリジナル版は、かなり昔に見て、物凄く感動しました。これははじめて見た反戦映画かも。あの蝶々のラストシーンが素晴らしいんですよね。
    ディテールは忘れてしまってますが、また見直したくなりました。

    最近、昔の映画のリメイク多いですね。どんな風にリメイクしてるか興味津々です!
    2023年02月15日 01:42
  • ノルウェーまだ~む

    >ごみつさん
    >
    私もあの蝶々のラストシーン大好きです!
    悲惨な戦争中の間にも、どこかほっこりしたりクスっとしたりするシーンがあったりするオリジナルに対し、今作はどこまでも冷ややかでその分リアルなように感じます。
    ちょこちょこ違うので、併せてご覧になると良いと思いますよ~~☆
    2023年02月15日 23:29
  • にゃむばなな

    ドイツの原作をドイツで映画化したからこその、ドイツ語での会話だからこそのリアリティが凄まじかったですね。
    そしてこの邦題が映画を見終わると、改めて素晴らしいと思えましたよ。
    この「異状なし」という文言を見つけ出した方は映画史に残るいい仕事をされたと思います。
    2023年02月16日 00:37
  • ノルウェーまだ~む

    >にゃむばななさん
    >
    日本語的に言うと「いじょうなし」は「異常がない」とつい思っちゃいますけど、そういう事じゃなかったんですね~映画を観て理解出来ました。この映画を端的に言い表していて見事でしたね。

    ドイツ語だからこそ、カラーだからこそ、CGも使っているからこそのリアリティでしたが、どこか遠い第一次大戦と思ったら、なんと現代でも塹壕戦を行っているとは!!とにかくビックリです。
    2023年02月16日 23:07
  • margot2005

    こんにちは。
    戦争映画は哀しみが伴うので避けてましたがとうとう見ました。
    BAFTAでは作品賞受賞しましたね。オスカーもエドワード・ベルガー監督に是非獲得してもらいたいです。
    戦争の悲惨さは強烈でした。停戦を訴える大臣に対して、プライドの塊の将軍。犠牲者は若い兵士たち...。
    食べ物がなくて農家から盗むシーン...その後の彼らの姿。
    現在なら義気付きカードかと思える、兵士たちの首にある多分アルミ?のカード。死体から回収するあのシーンは泣けました。
    最初の回収者はフェリックスでしたから...。
    アメリカ版いつか見て見たいです。
    2023年02月26日 17:18
  • ノルウェーまだ~む

    >margot2005さん☆
    >
    >コメントありがとうございます。
    最初のフェリックス、次にパウル、そして最後の若者が名札の回収者となってリンクしていきましたね。
    そんな大切なシーンでしたが、私は名札がキップのようになっていて、半券をもぐことで、のちに亡くなった人の名簿と遺体を照らし合わせる事が出来る合理的なドイツのやり方に感心してしまいました(苦笑
    BAFTAでは作品賞だったのですね!?今の世界情勢を考えるとアカデミー賞でもかなり有力な気がします。
    2023年02月27日 22:53

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