池井戸潤の小説をもとに完全オリジナルストーリーで作られているというだけあって、武骨なメガバンクの闇を暴くお仕事ドラマでありながら、さすが阿部サダヲのエンタメ要素をさり気なく注入して、今までのありがちな「倍返し的バンクもの」と一線を画して『悪を成敗してスッキリ』する話ではないところも面白い。
「シャイロックの子供たち」 公式サイト
東京第一銀行の小さな町の支店で100万円の紛失事故が起きた。
疑われた女子行員(上戸彩)は無実を主張するが、所長はじめ上層部はポケットマネーで補填して事故をなかったことにする。
課長代理の西木(阿部サダヲ)は部下と一緒に真相を突き止めようと奔走すると、意外に事実に突き当たり・・・
今回初めてムビチケカードが当選したので鑑賞。あまり宣伝を派手に打ってなかったので、ちょっと心配したけど充分面白かった!!
まず冒頭で舞台劇が披露され、『シャイロック』が何者であるか紹介される。
彼はユダヤ人の強欲な金貸しで、「証文通りお金を返せない人から胸の肉1ポンドを切り取ってよいが、血を1滴も流してはいけない」という名審判により見事に成敗されるという話。舞台の後、「お金を借りたのに返さない人が悪いんじゃない?」と言う妻に、「金は返せばいいってもんじゃない」とつぶやく。
これがのちにポイントとなっていくのだけど、この審判が『正義なのかそうではないのかモヤモヤする』事がまさにこの映画のテーマとなっているのだ。俳優たちが『その俳優の印象』通りの配役で使われているので安心感がある。
結構、似合わない役を無理して演じている人を見ると違和感が先行して気持ちが削がれてしまい物語に集中できないので、そういう意味でキャスティングはばっちり。
とにかくほぼ銀行内の話なので、全員ダークスーツと女子行員ユニフォーム。なのにそれぞれが特徴を出して役になり切れているのは、この安定感があるからこそなのかも。
メガバンクの闇というと想像の範囲内ではある。
ただ伏線の回収が上手いので、そうきたか!?となる。
この物凄く銀行で起こりそうな話で、「倍返し」が行われスカっとするかと思うとモヤモヤするのはある意味真っ当な感情であり、そこを同列に見せるのも上手い手だなと感じる。
とにかく息子が銀行の内定を断って正解だったなぁとしみじみ思ったのだった。
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この記事へのコメント
隆
シャイロックの子供たちですね、アブラハムの七人の子供たちとは似ても似つかない気がしますよね。
金儲けをする事が、悪事というのは、古い考え方ですが、子供に何を遺すかがあって、教えたり、教えられたり、であると、金を使いたくなると思います。要は、金儲けは欲望の為で、それを使わせるのは、愛情であるべきで、それは、他者でもあり、また、自己愛でもあると思います。
銀行員というと、キャリアウーマンとかエリートと言うイメージがあるので、そういうジンクスみたいな外的なイメージは古い作られたものだと思います。内に居る現場の人達として、時代の変化にも対応して、ポジティブな想いを実にして行き働きたいですね。
ごみつ
「シャイロックの子供たち」、劇場予告で面白そうだな〜って思ってました。池井戸映画だと、先日テレビ放映で見た「七つの会議」もなかなか面白かったし。
シャイロックはシェイクスピアの「ヴェニスの商人」の中の強欲なユダヤ人の金貸しですが、同じユダヤ人であるアル・パチーノがシャイロックを演じた映画が面白かったですよ。
「ユダヤ人である事がそれほど悪なのか?」みたいなテーマになってて良かったですよ。
きさ
池井戸さんは制作にも名を連ねていました。
原作は昔読みましたが、かなり脚色されてますね。
俳優陣はみな好演していますが、一番印象に残ったのは橋爪功と柄本明。
どちらも胡散くさい役で胡散演技対決が楽しかった。
息子さん、銀行の内定をもらっていたんだ、、
ふじき78
「金は返せばいいってもんじゃない」
このお金の貸し借りには
①お金を借りて返さない人
②お金を借りて返したけど問題のない人
③お金を借りて返しはしたが問題のある人
がいると思うのだけど、③と②で③が悪いのは分かるけど、③と①だったら①の方が悪いと思うので、いきなり③の話を持ち出されても
ノルウェーまだ~む
>
「働いてその対価としてお給料を得る」=働いて得る喜びに対して、「お金を得るために働く(お金を得ようと画策する)」事の違いについて、考えさせられる物語になっていました。
実際、巨額の不良債権などで破綻し、会社や地方銀行が潰れたりするので絵空事じゃないのかもwwと恐ろしくなりましたよ。
桁違いの巨額のお金が右から左へ動く金融の世界に、ただ唖然とするばかりでした。
ノルウェーまだ~む
>
アル・パチーノがシャイロックですか!?それは面白そうです~
未見なので終末に見てみようかな♬
実はロンドンに住んでいた時のオーナーがユダヤ人だったのですが、彼らは実に堅実です。
とかく金儲け主義と取られがちなユダヤ人ですが、本質的にはケチケチしていて贅沢しないからお金が溜まるわけで、決して人からむしり取って富を蓄えている訳じゃないんですよね~
ノルウェーまだ~む
>
原作も読まれたのですね~
鑑賞後、若いカップルが原作と同じなのは最初と最後だけだったと話しているのが聞こえました。
大御所俳優のうさん臭さ対決は見事でしたね(笑
映画に登場した営業の若者の末路を見ると、どの業界でも大変でしょうが心が痛みました。
ノルウェーまだ~む
>
③の「お金を返しはしたけど問題のある人」については、自分でどう思うのか?がポイントで、正面切って真っ当に生きているかどうか?自問することが大切ということなのでしょうね。
自分の息子に尊敬される父でありたいという「人としてちゃんと生きる」ことが出来る人と、それを忘れた人たちの話でもありましたね。
セレンディピティ
池井戸さんの金融小説はどれもはずれがないので、本作も興味津々だったのですが、予告で見た阿部サダヲさんのややおおげさ?な演技にちょっと躊躇していました。
勧善懲悪のお話かと思いきや、少しほろ苦さのある結末も気になります☆
瞳
てっきり「倍返しだ~~」的なスカッとするお話だと思っていたのですが、違うのですね!気になってきましたよ。
ごみつさんの書かれてたアル・パチーノの「ヴェニスの商人」ぜひまだ~むさんの感想が伺いたいです。
パチーノ寄りで観てしまった記憶があります。ジェセフ・ファインズとジェレミー・アイアンズの親友同士にちょっとドキドキした記憶も・・・。
そういえば、私も昔、銀行の内定をいただいていました。ワケあってやめたのですけど・・・息子さんと一緒だわ。
ノルウェーまだ~む
>
いえいえ、実は一見阿部サダヲワールド炸裂の面白おかしい映画と思いきや、金融の闇を描いた池井戸潤色がしっかりと濃い作品になってるんです~~
ただ「半沢直樹」風にまじめ一点張りなのではなく、阿部サダヲの”いつも通り”がちょっぴり見え隠れする程度なのが程よいし、それが今までの金融物ドラマの既視感を払拭してくれるんですね。
しかも大袈裟ほどの演技ではないので、非常にリアルな物語になってます。
配信になってからでも是非!!
ノルウェーまだ~む
>
まあ!瞳さんは窓口に座っていたかもな方だったのね!?
この映画でいくと、お客様係の上戸彩さんだわ~~
実は「倍返しだ!」でもあるのですけど、勧善懲悪ではないんですね。そこが「シャイロック」のモヤモヤに通じるものがあって、スカッとしないけど、ある意味考えさせられるんです。
さっそく「ヴェニスの商人」見てみようかな~
ここなつ
これ、面白かったですよねぇ。役者は全員正に適材適所。みんな期待していたような演技をしてくれたので嬉しかったです。
橋爪功と柄本明はもちろんなのですが、柳葉敏郎と佐々木蔵之介の曲者感が半端ない。
ノルウェーまだ~む
>
邦画の難しい所は、俳優さんが意外な役にチャレンジしているのは面白いけど、やっぱり適材適所の役柄が安心するってところですよね☆
その点でこの映画は満点でした!
どいつもこいつもツワモノでしたね~~(爆