黒澤明監督の名作「生きる」」をカズオ・イシグロ脚本でリメイクしたイギリス映画。
舞台を戦後のイギリスに移して描かれながら、全く違和感が無いのはそれが普遍的なテーマでもあり、またイギリス人の気質が日本人と似ているからなのかもしれない。
何でもハリウッドでリメイクしたがるけど、舞台がアメリカではこうはいかないよね?
「生きるーLIVING」 (3月31日公開)
仕事一筋で堅苦しいウィリアム(ビル・ナイ)は、職場でも家庭でも煙たがられる存在だった。
ある日余命半年を宣告され、生きているうちに充実したいと海辺のリゾートへ行き憂さ晴らしをするが、一向に楽しい気分にはなれなかった。
ロンドンへ戻ると行方不明のウィリアムを心配していた若き事務員のマーガレットに再会する。彼女は公務員を辞め、夢を求めてカフェ店員に転職をしていたが、彼女の魅力あふれるバイタリティに触発され行動を共にしているうちに街で噂になってしまう。
息子にも打ち明けられなかった余命を告げたウィリアムは・・・
1953年大戦後のロンドンが舞台ということで、ロゴも昔風、画角サイズも昔のテレビサイズで当時の古い荒い映像からスタートする。そこから自然と物語へ違和感なく移行していくところは実に秀逸。
山高帽で正装した紳士を駅に配し、アップを多用し様々に特徴的なアングルで撮影することによって「当時」を演出できるロンドンの街並みも素晴らしい。
「うず高く書類を積み上げ、その陰で出来るだけ忙しそうに見せるのが大事」と新人のピーターにマーガレットがアドバイスして、お役所の仕事ぶりをチクリと風刺している。大切な血税でのらりくらりと仕事するのは、古今東西どこも同じなのね・・・
最初と最後を〆てくれる新人のピーターは、あまり活躍もしないで終わるけれど、この彼が登場することで未来に希望が持てるラストになっている。オリジナルの方はどういう風になっているのか黒澤版を見てみたくなった。
余命を宣告されてから急に色々な事をし始めたり、色々な人に会いに行ったりする映画は沢山あれど、この「生きる」が名作であるのは、ウィリアムが最初に海辺のリゾートで酒を呑んだりストリップショーに行ったりゲームセンターではしゃいだり女性とデートする事が、決して最後『輝いて生きる』事に繋がらないという点。
雪の中で亡くなっていたことを非常に悔やむ息子に対し、新人ピーターだけはウィリアムが幸せな満足感に包まれていたに違いないと知っていた。
この地味だけれど生きた証、生きる本当の意味について深く考えさせてくれる本作は一生に一度は観るべき映画と思う。
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この記事へのコメント
ごみつ
「生きる」、予告編で知って凄く楽しみにしています。
え、黒澤明の「生きる」をイギリスでリメイク!?とびっくりしましたが、脚本がイシグロカズオなので本当に楽しみ。
ブランコのシーンもあるんですね。オリジナルだと、そこで志村喬が「ゴンドラの歌」を歌うんですよ。ビル・ナイもなにか歌ってましたか?
まだ〜むさんの高評価記事で、ますます楽しみになりました。レポ、有難うございます。(*´∀`*)
ノルウェーまだ~む
>
歌ってましたよ~めっちゃいいシーンでした。
ごみつさんはオリジナルをご覧になっていらっしゃるのね?
私は未見なので早くオリジナル見なきゃって思ってます。
私も全く同じイメージで、あの世界のクロサワの「生きる」を今更リメイクぅ~?っていう気持ちで見たら、これがまたすっごく良くて…
さすがカズオ・イシグロ!ってなりましたよ☆
セレンディピティ
先日はお誘いくださりありがとうございました。
カズオ・イシグロの脚本、ビル・ナイも大好きな俳優さんで楽しみにしていた作品だったので、とてもうれしかったです!
さすがは黒澤明&カズオイシグロで、文学的で格調高い作品ながら、一見気難し屋のウィリアムに、意外にも人間くさいところがあってほっとしました。
人間死期を目の前にするとほんとうの姿が露わになるのかもしれませんね。
ノルウェーまだ~む
>
前にカズオ・イシグロ作品がお好きと伺っていたので、お誘いして良かったです♪
本当に格調高いというのがピッタリな作品だったと思います。
気難しそうで生真面目なウィリアムが、今まであまり表に出してこなかった部分を発露して生き生きとしてくる様は素晴らしかったですね☆
また良い映画が当たったらご一緒してくださいませ~~
margot2005
脚本は主演のビル・ナイに当てて書いたとカズオ・イシグロの記事読みました。ピッタリの役でしね。
>この地味だけれど生きた証、生きる本当の意味について深く考えさせてくれる...
同感ですね。タイトル「生きる」が秀逸です。
50年代のロンドンを再現した映像が素晴らしかったです。
ノルウェーまだ~む
>
ビル・ナイにあて書きされたんですね・・・確かに彼以外思いつきませんよね?この役。
ビル・ナイは意外に色々身近な人気映画に沢山出ていると、改めて気が付きましたが、どの役も全く別人のようになり切っていて本当に素晴らしい俳優だと改めて感服しました。
ノラネコ
不朽の名作として評価の定まった映画を、どうやってリメイクするのか、興味津々でしたがさすがノーベル賞作家。
オリジナルを内包した上で、新しい視点を作り出すとは脱帽です。
「ナナカマドの木」染みますよねえ・・・
ノルウェーまだ~む
>
仰る通りですね~
しみじみと良い映画と言うのがピッタリな表現と思います。
そうなんです!不朽の名作をリメイクする勇気も凄いし、リメイクでありながらそれを上回る素晴らしい出来だったのも凄いです。
それと言うのもカズオ・イシグロの脚本力、そしてビル・ナイの存在感だと思いました。
にゃむばなな
オリジナルを大事にしつつ、イギリス風に変更するところは変更する。
でもやっぱり変えられない部分は…と考えた時、改めてビル・ナイ以外にこの役は考えられないと思いましたよ。
ノルウェーまだ~む
>
確かにビル・ナイで大成功でした!!
彼は結構エンタメ要素の強い作品に出ていたようですけど、こういったヒューマンドラマこそ活きる気がしました。
まさに生きる~ですね☆
latifa
試写会でご覧になっていたのですね。
いいなーいち早く見れてー。
面白かったし、映像も凄く良かったです。
風景とかセットとか衣装とかもしっかり手が込んでいたし。
ビル・ナイの哀愁ある佇まいが素敵でした。
ノルウェーまだ~む
>
こちらの記事を探し出して下さってありがとうございます〜
ビル・ナイの哀愁漂う雰囲気が、イギリスの雨の多いどんよりした景色にピッタリでしたね。
オリジナルの邦画も見たいと思いつつ、そう言えばまだ見れてなかったです…
瞳
とても良かったです、沁みました。
ほんと、これイギリスで全く違和感ありませんでしたね。アメリカだとやっぱりこうはいかないでしょうね。
新人君の存在、私もオリジナルにも出てるのかな~と思いましたよ、それほど活躍はしないけれど、この作品において大きな存在感を感じました。
雪のシーンが全然寒そうに見えなかったのは、ウィリアムズの満足で幸せな気持ちがこちらにも伝わるからでしょうね。
ビル・ナイ、この役にぴったりでした。
ノルウェーまだ~む
>
ビル・ナイ本当にぴったりでしたね〜!
これがアメリカだと恋人に会いに行ったり空から飛んだりするけど、それをやったら果たして満足して死ねるのか?と兼ね兼ね思っていた事もあり、この映画は本当に共感性が高かったです。
その点でもイギリス人と日本人は感覚が似ているのかもしれませんね。
最後の雪のシーン、本当に暖かくて心に染みました〜
ボー
エラーが出るので、リンクできません。我が家にいらっしゃる場合は最近の記事をお探しください。
ノルウェーまだ~む
>
リンクのエラー申し訳ないです。
自分の場合だと…本当に考えちゃいますね。
もう遊べるだけ遊びたい「死ぬまでにやりたいこと」状態にやっぱりなっちゃうんだと思いますが、本当の満足って何?ってことですよね。
日々悔いなく生きることが一番なんだと、つくづく思いました。