今回は公開したばかりなのに早くも配信になったパク・チャヌク監督作品と未見の過去作品を。名作「JSA」、「オールドボーイ」と「親切なクムジャさん」はこちら。
「別れる決心」 公式サイト

別れる決心 - パク・ヘイル, タン・ウェイ, イ・ジョンヒョン, コ・ギョンピョ, パク・チャヌク, パク・チャヌク
夫が山登りで滑落事故に遭い、事情を聴いた妻のソン(タン・ウエイ)を怪しいと睨んで張り込みをしていた刑事(パク・ヘイル)だったが、次第に彼女に惹かれてしまう。証拠隠滅まで手伝うものの、遂には決別し妻の元へ戻っていく。
週末婚をやめ妻の住んでいる霧の街へ転勤したが、偶然ソンと新しい夫に再会する。間もなくその夫も殺され、再び被疑者となったソンは・・・
昼ドラのようにねっとりとして甘美な愛憎劇は、まるで手のひらにはちみつをこぼしてしまったかのよう。
テーマ的には普遍的な「真面目な刑事が美しい容疑者の女を愛してしまう」話でありながら、映像的には斬新。遠くにいるのに映像としてその場に居合わせ、じっとりと近くで見つめているような演出は、纏わりつくような粘度と湿度があり心の機微を見事に表現。
また中国から来た女被疑者ソンと言葉が通じ難い分、目で語り合い、間違った翻訳からミステリアスな謎を深めるところは、見ているこちらをも『よく解らない』世界に誘い込んでいく。
途中、延辺地区の話が出たので、彼女は両親を見取ってから脱北して中国で拾われロクでもない男たちに飼われていたことが示唆される。とはいえ「本当は次々と夫を殺める性悪女」である可能性を最後の方まで秘めているため、ラストのあっけない純愛が受け入れにくく、カンヌの高い評価に比べて多くの人が不満を漏らすのも判らなくもない。
結婚指輪のアップを多用し、この銀色の指輪が枷になったり、嫉妬の対象になったり、決意の表れとして使われたりと表情を変えていく所は実に秀逸。
「お嬢さん」 (2017年)

お嬢さん(字幕版) - キム・ミニ, キム・テリ, ハ・ジョンウ, パク・チャヌク
日本統治下にあった韓国。盗賊の一味として育ったスッキは、日本人の富豪のお嬢さんを手玉に取り、彼女の財産をすべて奪う計画を藤原伯爵と名乗る詐欺師に持ち掛けられメイドとして潜入する。献身的なスッキに心を寄せるようになるお嬢さんにスッキも・・・
今まで何故かポスターだけ見てホラー映画と思い込んでパスしてきた作品。
3部からなり、2転3転と意外な方向へ展開していく爽快さがあるものの、とんだ変態エロじじいの話や女性同士の絡みとかには必然性を感じず、感心しない。このようなエロさを期待した人たちが、「別れる決心」の純愛を物足りないと感じたのかな?
変態じいさんは日本人の富豪の女性と結婚した朝鮮人だから仕方ないとはいえ、お嬢さんまでもがカタコト日本語なのが最後まで気になって仕方ない。
まあ、このへんも日本の希少本(春画)のレプリカ・詐欺師・なんちゃって日本までも全てが「ニセモノ」で、二人の愛だけが本物だったということで?
「渇き」 (2010年)
敬虔な神父(ソン・ガンホ)は多くの人が亡くなっていく事に耐え切れず、死を覚悟してアフリカの治験の実験台となるが、輸血に交じっていた血液のせいでヴァンパイアとなって戻ってくる。なんとか輸血パックの血を飲んでしのいでいたが、幼馴染の妻との不倫をきっかけに欲望が抑えきれなくなり・・・
私の中では既に貫禄のあるおじさんというイメージしかなかったソン・ガンホもすらっとしていて意外と綺麗な全裸でビックリ。正直、前半部分は韓国の湿度の高い不倫ものでしかなく、神父さんと人妻の病院プレイに眉が八の字になってしまったけど、生真面目な神父が自分の内なる欲望に溺れる悪魔と闘うという点で、宗教的にテーマ性が実は深い作品。
薄幸で素朴な童顔の人妻が、ヴァンパイアになって妖艶に変貌していく様も見もの。
二人にとって一番障害となりそうな冷酷な義母を、最後まで大切に世話していたのも、キリスト教より儒教を重んじて興味深い。
この6つの作品を見て感じたのはパク・チャヌク監督の作品テーマは常に『禁断』なのだ。
「JSA」の南北朝鮮の兵士の友情から始まり、「オールドボーイ」の父✖娘、「渇き」の神父✖悪魔、「お嬢さん」の同性愛(姫✖メイド)そして「別れる決心」の刑事✖被疑者。
ここまでずっとエロティックだった作風を、「別れる決心」でぐっと純愛に振り切った彼はいったい次にどんな『禁断』を撮るのか?楽しみで仕方ない。
この記事へのコメント
latifa
おおーパク・チャヌク作品3本ご覧になったんですね。
「お嬢さん」
なんちゃって日本とか、エロ爺とか、ありましたねー。あんまり好きじゃなかったな。
「渇き」
これ、懐かしいな。すっかり存在を忘れてました。
そうそう!ソン・ガンホ氏がかなりしゅっとしていて、私も意外に思ったわ。これもあまり・・だったな 笑
そういえば「禁断」まさしく、そうですね。
「JSA」良い映画でしたね。
韓国映画ってやるなー!って思った映画の一本でした。
あの時のメインの3人がそれぞれ現在も大活躍していて、年は取られただろうに、あんまり変わってないっていうのも凄いわ・・・。
こうしてみると「別れる決心」って随分品が良い映画なのねー。
ノルウェーまだ~む
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こうやって作品を並べてみると、なかなかにバラエティーに富んでてビックリしますよね。
そして私も「お嬢さん」と「渇き」はあんまり好きじゃなかったww
その点「別れる決心」は「JSA」の流れを汲んで、品よく『禁断』を追求できたって感じします。
激しさを求めるパク・チャヌクファンには物足りなかったみたいですけど・・・