DVD鑑賞「タイム・オブ・ウルフ」☆ハネケわーるど

まだまだ続くよ、息子チョイスのDVD鑑賞。その中で特に良かった作品をご紹介。

「タイム・オブ・ウルフ」(2003年)フランス・オーストリア・ドイツ
タイム・オブ・ザ・ウルフ [レンタル落ち]
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別荘へ着いた途端、見知らぬ男に夫を殺されたアンヌは、子供たちと自転車とわずかな荷物を持って彷徨っていた。列車で他の場所へ逃れようと停車駅へ着くと、そこにも災害から逃れて来た人々がコミュニティーを作っていたが僅かな物資を取り合うばかりだった。体調が悪く鼻血が止まらない弟のベニーはある夜…
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未だに恐ろしくて見られない「ファニーゲーム」の印象が強すぎて、ハネケの作品自体をずっと敬遠してきたけど、思えば息子が中2の時に見て「良かった」と言っていた「白いリボン」は確かに傑作だった。
絶望をきちんと絶望として描き、その中でほんの少し光を残す僅かな希望が彼の映画の持ち味なのだ!
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冒頭、のどかに家族で別荘に遊びに来た話だと思って観ていたのでとにかくビックリ。
詳細は一切判らないけど、どうやら水が汚染され救援物資はどこからも届かないのは致し方ないと認識するくらいのレベルの「何か」が起きている。そんなSFのようでもあり、戦後のようでもあるけど、どの時代のどの地域でもないディストピアを描いている。ウォークマンで音楽を聴いたりしているので近代であることは間違いない。
ここで凄いのが、核戦争で荒廃したりしていないのに、とにかく何もかも絶望的なのだ。
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自分の利益しか考えてない大人の偽善により統率されている避難所のコミュニティで、少年ベニーは「旧約聖書のタルムードの言葉」の話を聞く。(と言う事はユダヤ人迫害を暗喩しているのかも?)
世界の調和的平和はわずか「36人の義人」によって支えられ、その36人は人知れず黙々と汗を流し、時に血を流す人でなければならなくて、彼らが義人と認知されてしまうと死ななくてはならないのだそう。
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暴力も無ければ戦いもない、言葉少なで静かな映画なのにこんなにも絶望的。自分が生き延びるのが精一杯な中で、子供たちだけが与えあう義人として描かれる。
ラストのシーンは果たして神か仏か?答えを出さないのもハネケならでは。

今回能登半島地震の災害も救助の手が差し伸べられて当たり前と思っているけど、これが誰からも支援がなかったり救助が無かったりしたら?
世界中の紛争地帯でこれは現実に起きている事なのかも。遠いよその国の事と思っていてはいけないのだとしみじみと思うのだった。

この記事へのコメント

  • セレンディピティ

    まだ~むさん こんばんは。
    息子さんの選ぶ作品はどれもすばらしいですね。
    ハネケ監督作品は唯一「愛 アムール」を見ているだけ(これは比較的マイルドな作品)ですが、いずれも見るのに覚悟がいる作品でなかなか手が延びません。白いリボンもほんとうは見たいのですが...。
    お話をうかがって(エンタメ作品ですが)ちょっとクワイエット・プレイスを思い出しました。
    本作で描かれている絶望は、どうしても今回の震災と重ねて見てしまいますね。
    2024年01月07日 23:25
  • ノルウェーまだ~む

    >セレンディピティさん
    >
    そうなんです…偶然にもタイムリーな作品を見る事になりました。
    クワイエットプレイスは相手の正体が分からないけど、少なくともバケモノであることが判ってるのに対して、こちらは見ている私達だけが原因を判らないってところが非常に斬新だな~って思いました。
    「愛、アムール」実はまだ見てないのです。セレンさんが見たことがあるマイルドな作品なら是非見なくちゃね☆
    「白いリボン」は具体的に悲惨だったり絶望的だったりな事象は起きないので、3時間眠気との戦いですけど、その『何も起きないどうにもならなさ』が残酷なんですよ~なので大丈夫と言えば大丈夫な作品ですww
    2024年01月08日 14:24
  • おはようございます。

    わ~!!息子さんの選択に興味津々です。
    これも気になりますねぇ。
    何もおきない静かな映画なのに絶望的!?じわじわ~~と怖さがきそう・・・・。
    冬休みが終わって娘一家も帰ったので、そろそろ新春初めの映画を観ようと思ってます。こちらで情報集めさせてもらってますよ~(笑)
    さて、何から観ようかしら。
    これは体調整えて見なくてはずしーんときそうですね。
    2024年01月10日 10:00
  • ノルウェーまだ~む

    >瞳さん
    >
    これね、何も起きない事はないのだけど、何というか良くある終末的映画のようなド派手な事は何も起きないし、スーパーヒーローが地球を救ったりもしないので、いわゆるリアルなんですよ。
    でも、宗教的なものがメタファーとしてあるので、どこか寓話的でもあるんですよね。
    今は配信には無いかもですが、是非いつか見て感想聞かせてくださいね☆
    2024年01月10日 23:14
  • ここなつ

    こんばんは。これね、これなのね。
    ハネケはホントある意味の「残酷」を平然と描きますよね。
    何か感想を拝読しただけでもヒタヒタとした恐怖が感じられました。
    2024年01月13日 22:01
  • ノルウェーまだ~む


    >ここなつさん
    >
    これです、これなんです!
    いわゆる残酷と言っても血も出ないし(ほぼ)暴力も無いし(ほぼ)でも近未来SFではない所が実にひたひたと怖いんですよね・・・
    2024年01月14日 00:02

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