試写会「葬送のカーネーション」☆斬新な手法で描く小津ファンのトルコ人監督作品

まるでドキュメンタリーのようなのにどこか寓話的、哲学的でありながらユーモラス、邦題から想像するように状況はとんでもなく悲壮なのに何故かたまにクスっと笑える。
主人公だけは殆ど台詞無し、周りの人たちはめっちゃお喋り…

「葬送のカーネーション」 公式サイト(1月12日公開)
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トルコで難民生活を送るムサは妻の遺体を故郷へ埋葬しようと棺桶を背負って幼い孫娘と二人で旅をしている最中。棺ごと運んでくれるような車はなかなか捕まらずヒッチハイクは思うようにいかない。
両親を亡くした地へ赴くことに抵抗がある孫娘だが、途中で出会う親切な人たちから死生観を学び、少しずつ成長していくが…

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旅はなかなかに過酷。何が過酷って祖父が妻との約束の事しか頭になく、孫娘にやたら厳しく冷たいのだ。その祖父の台詞は全編に渡ってほぼ「ハリメっ!」のみ。ぬかるみに木の枝で絵を描いているだけなのに、ハリメから枝を取り上げてポキッと折って捨ててしまう。何で大人しく絵を描いているだけなのにそんなことするんや~~?とそんな事されてもハリメはお構いなしに次の枝で黙って絵を描き続ける!(笑)
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二人だけの時は特に静か。音楽もなく台詞もないのに、雄大な景色は雄弁。
12歳くらいのハリメが唯一持っている木製の馬のおもちゃから車部分を取って棺桶の足に取り付けて、見渡す限り何もない大地を年寄りのムサは一人で引っ張る。
説明は一つもないけれど、12歳にしては幼過ぎる赤ちゃんのおもちゃを大切にしているところをみると、ハリメは多分シリアの内戦でよちよちくらいの年に両輪を亡くして、祖父母と共にトルコへ避難してきたことがこのオモチャだけで語られているのだ。
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途中親切に食べ物をくれる羊飼いの男は障害があるらしく話が出来ない。その彼よりも寡黙な二人。トルコでは多くの難民を受け入れている事から、彼らはこのような貧しい者からも「親切にされる」状況にある事が示唆される。
主演の少女は本当の難民の子で、ずっとずーっと手袋をしていると思ったら手にケロイドの跡があったらしい(私は見逃しちゃった) オーディションの条件はマイナス20度に耐えられる人。トルコってそんなに寒いのね・・・
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嵐の夜に過ごした洞窟で不思議な夢を見る。
何かを啓示するかのような不思議な夢。思わずあんぐりと口を開けてしまったけど、イスラムの死生観に関わるものなのか?哲学的な香りがするくだりだ。
棺から出した妻の遺体が「もう自分を火葬して」と言っているよう。そうよ灰にして故郷に撒いたらこんなに苦労しないのに…
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途中で出会う人たちやラジオから流れるDJが、人間の生と死について語る語る。遂に検問で捕まる時も警察に「どこに埋めても一緒だ」と言われてしまうけど、ムサは聞く耳を持たないし聞くつもりもない。
ムサにとって目的は妻を故郷に埋める事だったはずなのに、本当は自分が故郷へ帰りたかっただけなのだ。オープニングとリンクしているラストが秀逸。

頂いたパンフレットによると原題は「クローブをひとつまみ」私はこっちのほうが良かったな。ポイントは棺を運ぶ車が全て赤で、最後のカーネーションの赤に繋がって行くのだそう!
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ほとんど演技指導しなかったという主演の少女は、12歳にしてどこか達観したような冷淡な目をして、無茶を言う祖父の方がまるで子供のよう。これだけ理不尽な状況にさらされても悲壮感は無いのは、そんなハリメの無表情さにあるのかも…
#葬送のカーネーション

この記事へのコメント

  • ここなつ

    こんばんは!
    コレ試写会でご覧になったんですねー!
    どうでした?…って読めよ、って話ですが、拝読した上でのぶっちゃけな質問です。
    というのは、私公開した時に観るかどうかを今すごく迷っているところで…何となく、予告編とかだととても静かな…まあ違う言葉で言うとちょっと退屈な?感じ?がしたので…
    うーん、どうしよーかなーっていうところなのです。
    コレ系の作品って東京国際映画祭とかでありがちなような傾向の気もするし。そういう作品って観るのに体力要るんですよね…
    あ、こんな質問ご迷惑かも、すみません。
    2024年01月13日 21:57
  • ノルウェーまだ~む

    >ここなつさん
    >
    これね、東京国際映画祭で昨年既に上映したらしいので、ここなつさんの所で探したんだけど、やっぱりまだご覧になってなかったのね?
    ぶっちゃけ言うと、疲れている時観たら十中八九寝ます。
    でもね、しっかり観たら面白いんですよ~最初静かで寝そうなのに、途中から目が離せなくなっていくんです。私が超激推しの「草原の実験」っていう映画みたいな感じなんです。
    多分、映画祭で色々観ているここなつさんならきっと面白いと感じてくれると思いますょ。
    でも気を確かに持って観て!
    2024年01月13日 23:56
  • ここなつ

    こんにちは。
    観てきましたよ!幸い全然眠くなりませんでした(笑)
    とはいえ、私には単なるロードムービーとは思えず結構心が傷んでしまいました。

    主演の女の子、これが初演技なんですってね!凄い!雰囲気アリアリの美少女でしたね。

    「カーネーション」の理由がわからなかったから、まだ〜むさんの記事を読んで良かったです。ありがとうございました。
    2024年01月31日 16:12
  • ノルウェーまだ~む

    >ここなつさん
    >
    良かったです〜私も試写会のトークショーが無かったら、カーネーションのことも運んでくれた車が全て赤だったのも気が付かなかったです。
    静かで淡々としてるのに、不思議と眠くならない吸引力が有りましたね。
    そして少女が気の毒で確かに心が傷みます。案外あの粗布からの開放が、彼女にとっては明るい未来だったかも?
    2024年01月31日 22:25

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