「オッペンハイマー」☆アメリカ人の本音

レビューを読んで観るかどうか迷っていた。この世界的に恐ろしい兵器を生み出した男の生涯を描いた作品で、日本の惨事が描かれていない事への批判に観る前から同調している私だったけど、出来るだけフラットな気持ちで挑もうと・・・

「オッペンハイマー」 公式HP
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優秀な物理学者オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)は世界各地に留学し多くの友と知識を獲得して、第二次世界大戦中原爆開発のプロジェクト委員長に任命される。丸ごと街を創り宿敵ドイツより先に完成させるべく奔走、実験も成功する。しかし原爆投下で終戦させたことに歓喜する人々を他所に、その被害の大きさに水爆の開発を反対するようになった彼は…
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結論から言うと作品としては素晴らしい。難しい物理用語も沢山出て来るし、人がいっぱい登場するし、普通なら過去がモノクロなのに中盤の時期がモノクロになってて時代をいったりきたりして訳判らなくなりそうなのに、少しも眠くならず3時間があっという間。
実際、彼の人となりと世界を席巻する天才物理学者としての激動の人生は興味深いし、映画としては良く出来ている。助演男優賞を獲得したロバートダウニーJRも演技でというより年の重ね方の特殊メイクが実に見事。
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良心の呵責に関しても、日本の惨状をニュースで見ていたたまれず、人々が歓喜する中で彼だけが苦悩する姿は観ているこちらも胸がえぐられる瞬間だ。
ただ・・・オッペンハイマーはその威力を最初から知っていたはず。軍が巨額を投じたプロジェクトで途中で止められなかったのも理解出来る。自分が辞めても誰かが、又は敵国が作り上げるのも解っていた。軍が冗談めかしてプロジェクトを抜けたら暗殺すると言うのも当時なら有り得たかも。学者として追求したい成功したい世界に名を残したい欲望も理解出来る。
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彼が栄光と贖罪の間で揺れ動いているように、私も映画の出来の良さと日本人としての気持ちの間で揺れている。
何が問題かというと、アメリカでは結局彼は『偉業を成し遂げた天才物理学者』であって、『悪魔』として描いていない事に我々日本人は心の置き所が無い気分にさせられるのだ。
オッペンハイマーは密室の審判の際に妻の前で不貞を暴かれる。彼は秘密の基地で帝王となり、名声も女も好き放題だったことで後に裏切られたりする訳だけれど、この『他人のことなどどうでもよい』不誠実さが即ち原爆を創る行為に直結しているし、身を滅ぼした事にも繋がっているのではないか?
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ただ冷静に考えてみたい。原爆を落として『終戦させることに成功した』と歓喜する国民たちの姿は、敵国を打ちのめす戦争映画を見て喜んでいる自分達なのだ。敵だけが悪魔で、枯葉剤を撒いたり紛争地を攻撃していてもそれが正義になってしまう。そしてその映画を見て悪いやつをやっつけた!とスカッとするのだ。
つまりこの映画は少なくとも原爆の恐ろしさを伝える反戦映画ではない。結局形ばかりの贖罪の気持ちを示しても、彼を偉人として讃えているアメリカ人が、被爆国の事などお構いなしにこの映画にオスカーをあげちゃうところに彼等の本音が見えて面白くないのだ。

この記事へのコメント

  • ituka

    原爆投下による被災状況を一切見せない作りに賛否あるでしょうね。
    ただ、オッペンハイマーの苦悩は描かれていたので悪は当時の軍政府ということになり被災国に対する配慮もない。
    こういうテーマをうまく作るのが両国の目線で「星条旗」「硫黄島」を撮ったクリント・イーストウッドでしょうし、是非とも彼に撮ってほしかったです。まだ元気なのかな。
    2024年05月01日 23:07
  • ごみつ

    こんばんは。

    拙ブログにコメント、有り難うございました。
    そうなんですよ、この作品、映画としてなかなり上出来なんですよね。それこそ3時間があっという間でした。

    オッペンハイマーの人生や、核開発の過程が興味深いし、役者陣の好演もあって素晴らしい映画でした。

    ただ素直に感動したり、手放しで持ち上げる気にならないのは、やっぱり私たちが日本人だからなんですよね。

    とても複雑な気持ちになる映画でしたが、鑑賞する価値はあったな・・とも思いました。
    評価が難しいです。😓
    2024年05月02日 21:20
  • ノルウェーまだ~む

    >itukaさん
    >
    イーストウッド爺お元気かしらねぇww
    ただ私は映画的には充分これで正解なのだと思います。
    米国人の本音が透けて見えてて、日本人としては気分は悪いんだけど、ある意味そういった部分をそのまま描くことが人間の恐ろしさを間接的に描いていて見事なのかもしれませんね。
    途中、今後戦争映画を一切見ないぞ!決意した私でしたがww
    2024年05月02日 23:02
  • ノルウェーまだ~む

    >ごみつさん
    >
    同感です~
    映画的には非常に出色の出来栄えなんだけど、心象としてはどうしてもモヤモヤしますよね。
    ただ、こうモヤモヤしているのは日本人だけで、他の国の人たちは皆、足を踏み鳴らし歓喜している「あの人たち」なんです。
    そしてそれが最も恐ろしい事なのだと、ノーランは言ってるのかもしれないですね(あ、ちゃんと反戦映画なんじゃん)
    2024年05月02日 23:06
  • latifa

    ノルウェーまだ~むさん、こんにちは!
    ご覧になったんですね。

    私はまだなのだけれど、沢山人が出て来そうだし、難しい言葉や難しそうな物理学とか、多分ついて行けそうもない・・・と思って・・・。
    でも、いつかレンタルとかになったら見てみます!
    また、見た後こちらに戻って来ますね。
    2024年05月03日 13:22
  • ノルウェーまだ~む

    >latifaさん
    >
    有難うございます!!感想待ってますね♪
    実は私も物理学的なお話は当然の様についていけてなかったし、沢山人が出てくるし、仲間だったのにどうして??みたいな部分は理解が追い付かないままだったけど、最後にざっくりと全体を見れば良いのだと気付きましたよ~
    詳細を咀嚼出来たら一番なんだけど、そこまで拘らなくても良さそうデス
    2024年05月03日 14:16
  • セレンディピティ

    まだ~むさん こちらにも。
    オッペンハイマー、いずれ絶対見ようとは思っているのですが
    最近すっかり配信慣れしてしまって...
    劇場で見ようか、配信を待とうか、迷っています。
    倫理的な問題や、日本人としての心情は置いておいて
    「偉人伝」という視点で見るのがよさそうですね。
    科学者としてのオッペンハイマーにも興味があります♪
    2024年05月03日 15:08
  • ノルウェーまだ~む

    >セレンディピティさん
    >
    こちらにもありがとうございます。
    その「偉人伝」であることが日本人には面白くないんですよね~
    とはいえ、物理学者たちの原子を追求していく姿や、私たちがあまり知らなかったオッペンハイマーと言う人物やその背景を知ることが出来て、とっても興味深かったです。
    配信で見た時の感想、楽しみにしてますね☆
    2024年05月03日 21:48
  • 真紅

    ノルウェーまだ~むさん、こんにちは。拙記事にコメントありがとうございました。
    ↑のごみつ様のコメント、一字一句自分が書いたのかと思いました(笑)。
    全く同感ですね。
    ただ私はノーラン監督作品が好きなので贔屓目もあるのですが、評価としては賛です。
    日本ではもう観られないのかと思っていたので、公開されてよかったです。
    賛否両論はもちろんあるとして、まず観ることが大前提だと思うので。
    あとキリアンも大好きなので、彼が評価されてよかったです。
    2024年05月03日 23:42
  • ノルウェーまだ~む

    >真紅さん
    >
    私も作品的には非常に素晴らしいと思ってます。
    米国人をそれで責めるつもりも無いんですが、要はそれほど彼らは「反省」はしてないのが透けて見える事に、日本人として心情がどうしても苦しいんですよね。
    反戦映画じゃないと書いたんですけど、原爆や水爆で抑止力にしてそれを反戦と言ってるのかもしれません。
    監督はその辺の人間の愚かさを描いているのだとしたら、本当に素晴らしい映画と思います。
    2024年05月04日 17:01
  • ノラネコ

    原爆開発と原爆投下は全く違った事象なので、本作のスタンスは正解だったと思います。
    開発だけだったら日本もやっていて「太陽の子」という映画にもなってますし、結局完成してたら開発者とは別の軍や政治家の判断で使われていたでしょう。
    本作の一歩引いた視点は、ノーランが米国人ではなかったからこそ作れた、というのも大きかったと思います。
    天才の内面を描いたいい映画でした。
    2024年05月05日 20:26
  • ノルウェーまだ~む

    >ノラネコさん
    >
    そうですね、オッペンハイマーはあくまで学者なので、この映画自体は全く間違ったアプローチはしていないと思います。
    ただ米国人の根底に潜む感情を改めて認識することになって、我々日本人は居心地悪いんじゃないかなと思うのです。
    あんな酷い兵器を投下して、しかも2度も!(落としたのは軍だったとしても)多分贖罪の気持ちより鉄槌を食らわせたと思っている米国人が多い事を、何故か日本人は認めようとしないんですよね。
    それはアカデミー賞でアジア人が見えない差別を受けているのと同じ感情なんです。差別的に扱われている事を認めたくないんです。
    その点でも監督はキッチリ描いていて素晴らしいと思います。
    2024年05月05日 21:26
  • ここなつ

    こんにちは。
    ご訪問が大変遅くなってしまってすみません。…前もそうだったのですが、PCからコメント入れようとすると必ずハネられてしまい、色々試行錯誤したのですが、やはりスマホから入れるしかないと…
    とかどうとかやっているうちにあっという間にGWが過ぎ…なのでした。
    言い訳はこの位で、作品の方。私は自身のブログにも書いたのですが、科学者と政治のせめぎ合いというか、科学の進歩と人類の(人道としての)退化というすごく矛盾した関係に見えてしまい、その事に思いを馳せてしまいましたよ。
    進歩と発展に対する欲望というものが、必ずしも是とならない、というか。
    考えさせられました。
    2024年05月13日 20:29
  • ノルウェーまだ~む

    >ここなつさん☆
    >
    えーーっ⁉そんなご迷惑をおかけしていたのですね??ゴメンナサイ!私自身がスマホから投稿したり、PCで書いたりしているからかしらね?

    映画は本当にその通りです。英知を集めて生み出したものが、人間の役に立つものばかりとは限らないというジレンマありますね。
    AIだって今後人類の未来を明るくするのか、破滅に導くのか・・・?思いを馳せちゃいます~~
    2024年05月13日 23:01

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