「関心領域」考察☆ヤバすぎるアカデミー賞ノミネート作品は耳で観る映画

これは凄い!かなり慎重に注意深く観る事を求められる。
何しろ冒頭からたっぷりと、真っ暗な画面を眺める事になるのだから…

「関心領域」 公式サイト
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アウシュビッツ強制収容所を管理するヘスは、収容所のすぐ横に妻が念入りに手入れした広大な庭にプールがある快適な家で、何不自由なく暮らしていた。度々運ばれてくるレースや毛皮を分け、ご馳走を食べて日々楽しく暮らしていたが、ある時急に転属を言い渡される。快適な暮らしを手放したくない妻はイライラが募り、ヘスは単身赴任をすることになる。
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ほとんどを100カメ的に定点カメラで撮影したというだけあって、画角は平面的。引きの画面がほとんどで、人物の感情に寄り添うようなアップもあえて無し。普通に生活するように演じ、照明を当てないので暗い所は人物の顔の判別も難しい。
そんな映画の冒頭の暗闇はいったい何だったのか?不穏な音だけが延々と続くこの暗闇は、ベルリンのユダヤ博物館で観た『ホロコーストの部屋』に違いない。
この『収容所に入れられたユダヤ人の感情』を表したという真っ暗な部屋は、目が慣れてくると高い天井のてっぺんに細長い穴が開いるのに気が付くのだけど、そこから外の音が漏れ聞こえてくるのだ。
この映画の場合はその逆、壁の向こうから四六時中聞こえてくるのは、遠く銃声と罵声と恐怖におびえる叫び声。
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静かに淡々とあまり動きが無い引きの画面で観ていると、ともすると眠気に誘われる人もいるかもしれない。具体的な説明もなく登場人物の紹介もない。
ただ台車で持ち帰るレースや毛皮は、注意深く聞いているとそれがアウシュビッツへ収容されたユダヤ人の持ち物だったことが、ティータイムのご婦人方のお喋りの中に示唆される。
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アウシュビッツの効率的な運営に有能さを発揮しているヘスは、史実では裁判の時に「ヒムラ―から命令を受けただけ」と答えている。確かにそうなんでしょう。劇中でも運ばれてきた『荷』をどのように処理するか一般企業の敏腕社員のごとき冷静さ。しかし彼は当然ながら知っている、夜遠く立ち上る煙を眺めるややアップの映像に唯一感情を汲み取ることが出来る。
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妻には壁の向こうの騒音が聞こえていない。いや聞こうとしない。聞かない様にしているうちに聞こえなくなったというのが正しいかも。実際、良く泣く赤ちゃんのお陰で壁の向こうの騒音は消されがち。ちなみに当時アウシュビッツでは、ユダヤ人たちの叫び声が聞こえない様夜中エンジンをかけていたそうだ。
しかし子供たちには日々しっかり聞こえていて、眠れない上の子は毎晩ヘスに本を読んでもらう。その本が「ヘンゼルとグレーテル」というのもまた皮肉なもので、ラストのわが身に降りかかるその後を暗示したようなシーンへと繋がっている。

どれだけの観客が監督の思惑を察知して正しく恐怖に打ちひしがれるか難しいところだ。ぼんやりと観ていてはいけない。
ラストに突然切り替わる現在のアウシュビッツ博物館のシーンに登場したのは実際の焼却炉。→アウシュビッツへの道☆強制収容所会議で議題となっていた「生産」は博物館で見た人毛のマットレスの事なのかも?
誰もが簡単にヒトラーになりうる恐怖。私が人生のベスト映画に入れている「縞模様のパジャマの少年」と並ぶホロコースト映画となった。

この記事へのコメント

  • こんばんは。

    気になっているんだけど、こちらでは遠いシネコンんでしかやってないんですよ~~(>_<)
    冒頭から真っ暗~!?
    具体的な説明とかない作品なのね?
    ぼんやりと見てたらわけわからないうちに終わっちゃいそうかしら?

    配信になるかもしれませんが、これは見なくては~!!
    2024年05月30日 19:50
  • ノルウェーまだ~む

    >瞳さん
    >
    そうなんですよ~ぼんやりは禁物です!
    ただ感の良い人ならちゃんと気付くはず~案外配信であれ?と思った所を巻戻しながら見るのが正解かも?
    もしお暇があったら私のアウシュビッツレポもご覧になってね。多分、映画を見る時の良いヒントになると思います。
    2024年05月31日 10:25
  • セレンディピティ

    まだ~むさん こんにちは。
    これまでホロコーストやアウシュビッツ、ナチズムを描いた作品はたくさんありますが、こちらはこれまでにない視点で作られている、挑戦的な問題作のようですね。
    見るのに相当の覚悟がいるので、とりあえずは配信待ちとなりそうです。
    2024年06月02日 12:45
  • ノルウェーまだ~む

    >セレンディピティさん
    >
    そうですね。配信も良いのですが、これは音がキーになっている映画なので、出来れば劇場でご覧になる事をお勧めしますよ。
    映画全体としては「残酷」であることを描いているのだけど、具体的に残酷なシーンは一つも出てこないのが特徴です。
    誰かから搾取して優雅に快適に生活をすることが実は残酷な事であると、直接的に又は間接的に描いていて、それが他人事ではないと気付いた時にとても恐ろしくなる映画でした。
    2024年06月02日 15:06
  • ノラネコ

    アウシュビッツとユダヤ博物館は一度は行ってみたいと思ってる所です。
    人間がどこまで残酷になれるのか、それを未来からタイムテレビで観察しているような、不思議な感覚の映画でした。
    2024年06月08日 21:27
  • ノルウェーまだ~む

    >ノラネコさん
    >
    実際、未だ終わらぬ世界の各地で行われている戦争は、私たちにとって遠い国の事でしかなかったり、色々に考えさせられましたね。

    アウシュビッツはあちこち欧州を廻られた方なら、次の旅の目的地として選んでいただきたい場所です。
    ただポーランドから行くにしても、相当僻地なので…ツアーでささっと廻ると楽かもですが、電車とバスを使って延々行くと、当時のユダヤ人の心情に少しでも寄り添うことが出来るかもしれません。
    2024年06月09日 11:01
  • ここなつ

    こんばんは。
    これは本当にゾッとする作品でした。
    彼ら彼女らは日常を過ごしているにすぎないという点も恐ろしさに拍車をかけましたね。

    ところで「縞模様〜」ですが、私はこれが生涯でも「観るべきだけど観なきゃ良かった」作品ですわ。公開時にまだ息子が小さかったことも含めてトラウマ級の恐ろしさでした。
    あれもまた「日常」だったんですよね…
    2024年08月07日 23:51
  • ノルウェーまだ~む

    >ここなつさん
    >
    やっぱりここなつさんもですか・・・?「縞模様~」は特にその色が強くて、大人がやらかしている恐ろしい事の横で、子供はそれを日常として体験して、純真無垢だからこそ「その恐ろしさ」がぐっと我が事として感じることが出来るんですよね。
    それは「ジョジョラビット」もそうでしたね。
    本当に静かにゾッとしました。
    2024年08月08日 09:48

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